安全配慮義務を使用者が負うべき理由安全に配慮するための措置はさまざま今回は安全配慮義務について取り上げます。安全配慮義務とは、労働者が安全に働けるように使用者(事業主や事業の経営担当者など)が配慮し必要な措置を実施すべきことをさします。まずは、なぜ使用者に安全配慮義務が課されているかについてみていきます。安全配慮義務は、労働契約法第5条に、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と定められています。現在では企業が労働者の安全配慮を行うのはあたり前のように思えますが、実は同法第5条が施行されたのは2008(平成20)年3月1日。それまでは、判例を通して安全配慮が使用者の義務であることが示されてきました。例えば、「陸上自衛隊事件」※1と「川■義■事件」※2の判決のなかで、労働者は、使用者が指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具などを用いて労働に従事するものであることから、労働契約の内容として具体的に定めずとも、労働契約にともない信義則※3上当然に、使用者は労働者に対して安全配慮義務を負うとされました。このことは、民法などでは規定がなかったため、労働契約法第5条で明文化されたという経緯があります。労働契約法上で明文化される前から、〝信義則上当然に〟とあるように、労働契約を結んだ時点で、労働契約上特段の定めがなくとも、使用者は誠実に労働者の安全の確保や危険を回避するために必要な措置をとるべきとされていたのです。てみていきます。法令上にはとるべき措置の具体的な定めといったようなものはありません。ただし、厚生労働省労働基準局長の通達である「労働契約法の施行について」(基発0810第2号)には、・第5条の「生命、身体等の安全」には心身の・第5条の「必要な配慮」とは、一律に定まると記載されています。また、対象者(労働者)については、直接雇用している従業員のほか、自社で働く派遣労働者や下請け企業の従業員な次に、どのような措置が必要になるかについ健康も含まれる。ものではなく、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等の具体的な状況に応じて必要な配慮をすること。2023.648※1 陸上自衛隊事件(最高裁昭和50年2月25日第三小法廷判決)…陸上自衛隊員が、自衛隊内の車両整備工場で車両整備中、後退してきたトラックにひかれて死亡した事例で、国の公務員に対する安全配慮義務を認定した事件※2 川義事件(最高裁昭和59年4月10日第三小法廷判決)…宿直勤務中の従業員が強盗に殺害された事例で、会社に安全配慮義務の違背に基づく損害賠償責任があるとされた事件※3 権利の行使や義務の履行にあたり、信義に従い誠実に行わなければならないとする原則■株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。第35回「安全配慮義務」■■■■■■■■いまさら聞けない人事用語辞典
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