エルダー2023年6月号
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(聞き手・文/沼野容子撮影/安田美紀)生産年齢人口が減少するなか認知症患者が長く働くことは企業にもプラスに慣れ親しんだ定跡を使った能力は衰えないのです。専門職の人、もともとスキルを持っている人は、周囲の理解と協力さえあれば、仕事を続けていきやすいのかもしれません。認知症患者の仕事の可能性を広げていくためには、「データの蓄積」も有効だと思います。会社の業種や職種ごとに、働いている人の病気、重症度などのデータをまとめ、「こんなことができました」、「こんな工夫が有効でした」といったことがわかるようになれば、非常に参考になります。両立支援における認知症患者への対応というのは、「苦手な人にもできるようにする」という工夫なので、すべての人に応用が可能です。健常者の加齢性変化にもマッチします。超高齢社会にあって、こうした取組みは重要度を増していくのではないでしょうか。數井 実際に認知症患者に機能低下が起こると、「自分はこの組織に貢献できているのだろうか?」、「迷惑になっていないか?」と考えるようになり、メンタル的にもつらくなりがちです。「会社を辞めてしまいたい……」と思うようになることもあります。進行するタイプの認知症であれば、なおさらです。企業の方々には、認知症患者がこのような心情になることがあることを、知ってほしいと思っています。また、患者一人ひとり、まだできる得意なこと、苦手なことが異なるということも基本として知っていただきたいです。認知症の症状がわかる医師やコメディカル(医師を除く医療従事者の総称)などとも連携し、それぞれの障害パターンや残存機能を把握したうえで、会社の具体的な業務ともすり合わせ、その患者に託すことができる作業を見つける。そういう共同作業が望まれます。數井 で、むずかしい面はあると思います。しかし、生産年齢人口が少なくなり、働き手も減りつつある日本では、多くの人が働ける環境づく企業は利潤を追求すべきところなのりも大切だと思います。認知症患者に対しても、「仕事ができないから辞めさせる」と考えるのではなく、私たち医療者とのコラボレーションをお願いしたいです。もちろん、すべての医師が、認知症について詳しいわけではないので、全国にある認知症疾患医療センターなどの専門医療機関や、全国に配置されている「若年性認知症支援コーディネーター」などに、相談していただければと思います。らしっかりと働いている場面を見れば、その企業の社員は「よい会社だ」と感じ、長く勤めようと考えると思います。私たちにとっても、認知症と診断されても辞めないですめば、早期診断が進むという期待もあります。そして、早期診断が進めば、より長く働くこともできます。そういう好循環をつくっていきたいと思っています。認知症患者が、周囲の理解と協力を得なが―認知症患者ができるだけ長く仕事を続けていくために、企業に望まれるのはどんなことでしょうか。―企業にも認知症患者と共生する道を探ってほしいということですね。2023.64 高知大学 医学部 神経精神科学講座 教授 數井裕光さん

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