時代にかなった技法が後々「伝統」になっていくとくるにしています」と話すのは、富士製額の創業者である父の跡を継ぎ、代表を務める吉田一司さん。東京額縁には、素材である木材の木目を活かした額縁と、木目を隠して箔や塗料などによって金属や陶器などのように仕上げた額縁の二種類がある。額縁製作はおもに「木工」、「塗り」、「纏まめ」の三工程に分かれるが、吉田さんがになうのは纏めの工程だ。纏めは、最初に額縁の製作方針を立て、最後に額装して客先に届けて飾りつけをする、いわば監督のような役割をになう。吉田さんの場合、顧客から注文を受け、どのような額縁にするか、デザインや設計も行う。木材の木目の見極めから始まり、額縁の幅や、どのような仕上げを施すかまで、顧客の意向や飾る場所をふまえつつ、作品を引き立てる額縁を考案する。「私は父と違って、もともと器用な方ではなく、はなから職人は向いていないと思っていました。ただ、デザインやサンプルづくり、額装は向いていると思い、ずっとこの仕事を続けてきました」額縁ならではの技法に「古ふ美び仕上げ」がある。額装する絵画などに合わせて、経年変化の美しさを表現する技法だ。例えば、箔はを一度全面にきれいに貼ったうえで、こすり取ったり汚れを施したりすることでアンティーク調に見せる。職人の感性が求められる技といえる。吉田さんは木工や塗りの現場に立つことはないが、こうした技術を熟知している。その知識の裏づけがあって、初めて材料の選別やデザインが可能になる。「父は木工と塗りの職人でしたが、私が纏めとして入ることによって、時流に乗り遅れずにすみ、会社が生き残ることができたといえるかもしれません」62顧客の注文を受け、作品にふさわしい額縁をデザインし、仕上がりを監督する「纏め」が吉田さんの役割。額縁製作の深い知識に裏打ちされた仕事だ「額縁のデザインは、作品に焦点をあてるか、作品の広がりを出すか、額の存在を消すか、その三つぐらいのなかから方向性を考えていきます」
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