エルダー2023年7月号
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1多求められる勤務制度の多様化くの企業が、高齢社員の継続雇用の勤務制度を、定年前の正社員(以下、「現役社員」)時代と同じフルタイム勤務としているのではないでしょうか。しかし他方では、健康問題や家庭の事情(例えば、介護など)で仕事の両立がむずかしくなり、退職するケースもみられています。賀東さんが勤務する会社は勤務制度を見直し、従来のフルタイム勤務制度に加えて新たに短日数勤務制度や短時間勤務制度を設けました。この勤務制度の見直しによって、これまでのフルタイム勤務制度のもとで退職を考えていた高齢社員は、病気の治療や家族の介護をしながら仕事を続けることが可能になりました。解説2では平成期に進められた多様な勤務制度の整備とそのもとでの高齢社員の勤務制度をふり返り、高齢者の勤務状況に関するアンケート結果の確認を通して令和期の勤務制度を考えてみたいと思います。2図多様化の取組み表1は平成期の企業における勤務制度の変化の概要を整理したものです※1。定年前社員の平成期の勤務制度の変化~勤務制度はフルタイム勤務としていますが、少子高齢化にともなう生産年齢人口の減少、ライフスタイルの変化による就労ニーズの多様化などを背景に勤務制度の多様化︱︱短日数・短時間勤務制度の整備︱︱が進められました。これは、政府が取り組んでいる育児や介護との両立など多様化する労働者個々の事情に応じて、多様な働き方を選択できる社会の実現を目ざした働き方改革の一環として推進されている「多様な正社員制度」のなかの「短時間正社員」です※2。この短時間正社員は育児・介護などと仕事を両立したい社員、決まった日時だけ働きたい労働者、キャリアアップを目ざすパートタイム労働者など、さまざまな人材に、勤務日数や勤務時間をフルタイム勤務の正社員よりも短くしながら活躍してもらうための仕組みです。一方、高齢社員の勤務制度は、短日数・短時間勤務中心からフルタイム勤務中心へと見直しが進みました。高齢社員の活用の基本方針が福祉的雇用から戦略的活用に転換されることにともない、高齢社員に求められる役割が正社員に近い役割(中核業務をになう役割)に変わったことによるものです。それにあわせて、解説1で紹介したように、賃金・評価制度を定年前社員の仕組みに近づける対応がとられるとともに、勤務制度も現役社員と同じフルタイム勤務とする方向で見直されました。しかし、マンガのなかで賀東さんが勤務する会社のように高齢社員の事情やニーズをふまえ、現役社員と同じように責任のある仕事を担当しながら、福祉的雇用時代の短日数勤務制度や短時間勤務制度を維持したり、あるいは再度、導入する企業がみ17特集新任人事担当者のための高齢者雇用入門図表1 平成期の勤務制度の変化エルダー※ 筆者作成※1  平成期は、今回取り上げている勤務制度のほかに労働時間制度などを含めた働き方の柔軟化、多様化の取組みが進められた。その概要については本誌2022年7月号特集「新任人事担当者のための高齢者雇用入門」の「解説3 多様で柔軟な働き方の整備」を参照※2  多様な正社員制度には、短時間正社員のほかに、担当する職務内容が限定されている「職務限定正社員」、転勤範囲を限定したり、転居をともなう転勤がない「勤務地限定正社員」の二つのタイプがある福祉的雇用 ➡ 戦略的活用短日数・短時間勤務中心 ➡ フルタイム勤務中心概要現役社員勤務制度フルタイム勤務 ➡ フルタイム勤務+短日数・短時間勤務                (短時間正社員制度)活用の基本方針高齢社員勤務制度勤務制度の多様化

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