エルダー2023年7月号
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55エルダー食文化史研究家●永山久夫アフリカ原産のスイカが、シルクロードを経て中国に伝わり、日本で栽培され始めたのは戦国時代後期から江戸時代初期とみられ、西方から伝来したので「西■■瓜■」となったようです。その後、スイカがかなり普及していたことは、江戸時代の『本■■朝■■■食■■■鑑■■』に、次のように記されていることからもわかります。まず、「水■■瓜■」と書き、「すなわち西瓜のことである。俗に瓜のうちでは水分が多いところから、このように水瓜と名づける」とあります。なにしろ、スイカの約90%は、水なのです。江戸時代のスイカの利用法については、「全体で捨てるところは、一つもない。皮および白肉は煮て食べたり、あるいは、香の物にしたりする。紅肉は生食する。種子は、よく炒って食べる。それで、もっぱら賞されているのである」と記されています。スイカは捨てるところが一つもない、利用価値のきわめて高い瓜だったのです。いまでもスイカの皮は、煮たり、ぬか漬けにする場合が少なくありませんが、これらは江戸時代伝来の台所の知恵といってよいでしょう。『本朝食鑑』は、スイカの効果にも触れています。「渇きをとめて、暑気を消し、酒の深酔いを解して、よく小水を利す」とあります。スイカの利尿作用は現在でも知られており、その成分はシトルリンという物質で、スイカには同じような働きをするカリウムというミネラルも含まれています。また、スイカには体を冷やして、余分な熱をとり、疲労した筋肉を早く回復させる働きもあるので、夏バテの改善やのどの渇きをいやすのにも最適です。スイカ特有の赤い色素は、リコピンという抗酸化成分で、体細胞の酸化、つまり、老化を防ぐうえで役に立つと同時に、ガン予防効果の高いことで知られています。同じような働きをするカロテンも多く、免疫力を高めるビタミンCも含まれており、夏の強い紫外線のダメージを予防するためにも、効果的で、とってもおいしいフルーツなのです。「西瓜」から「水瓜」へリコピンの効果356FOOD日本史にみる長寿食スイカは捨てるところがない

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