生み出される漆器ろくけつい治期に創業した山口漆し芸げの4代目にあたる。「子どものころから先代である親父の仕事を見て育ったせいか、手仕事が好きでした」という山口さんは、中学卒業後、定時制高校に通いながら家業を手伝い始めた。ところが、まだ修業半ばだった22歳のとき、父・作さ助すさんが病気で亡くなってしまう。「それからは、記憶に残っている生前の親父の働く姿を思い起こしつつ、独学で試行錯誤を重ねながら技術を習得してきました。親父の残した工房と道具があったおかげで、今日までやってくることができました」山口さんは現在、華道や茶道で用いられる道具を多く手がけており、家元やほかの職人から直接注文を受けることも多い。高い技術と業界への貢献が評価され、2010(平成22)年に江戸川区指定無形文化財保持者となり、2021(令和3)年には東京都優秀技能者(東京マイスター)知事賞を受賞している。山口さんによれば漆塗りには30以上の工程がある。木き地じに和紙や布を張り、そのうえに砥との粉こ※1と漆を練り合わせた下地を塗り、乾燥させ、研ぎと磨きをくり返し、塗る面を平らにする。さらにその上に漆を塗り、乾燥させ、研ぎを数回くり返すことで、「漆黒」と呼ばれる美しいツヤがあらわれる。なかでも経験が求められるのが漆の扱いだ。「漆は温度・湿度によって乾き具合が変わります。そのため、一年中調整が必要です。漆は一定の湿度がないと乾かないため、湿度が低いときは、噴霧器で室む※2の壁を湿らせて調整します」特に朱色に仕上げるときは、乾燥のさせ方によって色が変化してしまうそうだ。6250年前につくられた花か き器の漆を刷毛で塗り直す。「親父に『修理ができて一人前』とよくいわれた」そう。器の“枯れ具合”に合わせて仕上げるのが腕の見せどころ※1 砥の粉……下地塗りに用いる粉末※2 室……器に塗った漆を乾燥させるための部屋30以上の工程を経て「漆は温度・湿度によって乾燥具合が変化します。そのため、冬は壁を 湿らせて湿度を高めるなど、経験に基づいた日々の調整が重要です」
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