エルダー2023年7月号
65/68

美大生とのコラボでユニークな作品を生み出す山口漆芸TEL:03(3689)2087(撮影・福田栄夫/取材・増田忠英) 「朱色の漆は基本的に1~2日かけて乾かした方がきれいな朱色になります。早く乾かすと茶色になってしまいます。その加減を経験から見きわめなければなりません」山口さんが特にやりがいを感じるのは、依頼されて修理した漆器を、持ち主にまた喜んで使ってもらえることだという。「親父はよく﹃修理ができて一人前﹄といっていました。古い漆器の枯れ具合にあわせて直す方が、新品よりもむずかしいからです」伝統的な漆器が用いられる機会が少なくなるなか、山口さんは漆を使った新製品の開発にも意欲的に取り組んできた。最近は、伝統技術の若手コーディネーターと連携し、ガラス製品に漆を塗る実験に挑んでいる。また、異業種の職人と勉強会を開き、新しい技術を取り入れることにも余念がない。さらに、10年以上たずさわっている活動に「えどがわ伝統工芸産学公プロジェクト」がある。江戸川区の伝統工芸者と美術大学生が連携し、新しい伝統工芸製品を創造する取組みだ。山口さんはこれまで、箸置き、コースター、ランプ、イヤリングなど、多彩な作品を学生と一緒に生み出してきた。「若い世代の自由な発想は、とても刺激になります」山口さんは8年前に脳梗塞となり半身にまひが残った。しかし「まだ仕事がしたい」とリハビリに励み、数カ月後には仕事に復帰。周囲の仲間にも助けられながらここまで来た。現在もリハビリを続けながら、漆と向きあっている。「これからも向上心を持ちつつ、マイペースにものづくりを楽しみたい」と仕事への意欲は尽きない。63エルダー塗りに用いるへら。塗りやすさを考え、自分で板を削ってつくる漆塗りの工程を示した見本。左から下地塗り・研ぎと漆塗り・研ぎを数回ずつくり返してツヤを出す茶器の棗なつめ。貝殻で柄を表現する螺ら でん鈿も得意とする漆塗りの折り鶴のイヤリング。美大生とのコラボから生まれたヒット作ひびの入った器の蓋を修理。塗りと研ぎをくり返して直していく下地塗り。砥の粉と漆を練りあわせ、へらで塗り、乾燥後に研いで平らにする vol.329

元のページ  ../index.html#65

このブックを見る