エルダー2023年8月号
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ng Better ith Age: Japan"という日本の高齢者雇用に関する報告ています。日本において定年制が人事の調整・刷新機能をになっている理由として、一つには、欧米のように、明確に規定された仕事・役割を基に従業員を評価し、雇用機会や処遇を都度調整するということが行われてこなかった点をあげることができます。判例によって構築された、整理解雇や就業条件の不利益変更を容易に認めない法規範の体系もこうした調整をむずかしくし、労働契約の終了が正当化される定年制の調整・刷新機能への依存度を高めたといえるでしょう。もう一つの理由としては、大企業を中心に維持されている年功的な賃金体系をあげることができます。20~24歳の一般労働者の所定内給与額の平均を100として各年齢層の所定内給与の平均を指数化すると、2010年代よりも加齢とともに賃金が上がる傾向は弱くなってはいるものの、2020年代になってもその傾向は維持されています(図表2)。こうした賃金慣行が続いていることも、各企業における定年制を通じた人事の調整・刷新の必要性を高めると考えられます。OECD(経済協力開発機構)は、2018年に発表した"Workiw書のなかで、「厳しい解雇規制と年功的賃金慣行のもとでの定年制と雇用確保措置は、企業に労働力調整の手段を提供している」と指摘しています。その一方で、「定年後の高齢労働者の雇用が質の低い不安定なものになっている」と評価し、定年制と年功賃金のさらなる見直しを実施することを提言しています。4加ルール化することの意義と課題齢に基づき労働にかかわるさまざまな状況を変える定年制は、OECDの報告書が指摘するような労働の質の低下をもたらし、より長期にわたる労働者の活躍を阻害する可能性がたしかにあります。定年制と同様、一定年齢後に仕事上の責任が変わる役職定年制の経験者に対し、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が2018年に実施したアンケート調査※2によると、59・2%は役職を降りた後、仕事に対する意欲が低下したと答えており、なかでも役職定年後に「社員の補助・応援」の仕事に従事している役職定年経験者では、低下したという回答の割合が73・4%と高くなっています。また、役職定年経験者についての別の分析からは、役職定年にともなう周囲の態度の変化をより大きく感じると、仕事に対する意欲の低下が起こりやすくなるという知見が得られています。方を見直し、ライフキャリアとの両立のために仕事量を縮小することで、定年後の仕事に対する満足感が向上するといった、定年制が労働者の立場からも有意義なものとして機能することを示唆する分析結果※3もあります。労働にかかわるさまざまな状況を年齢によって変えるルールですが、これらの制度の対象となる高齢労働者は、自らの健康状態や経済状況などをふまえてこれまでの働き方を見直し、変えていくという問題に必ず直面することになります。ただ、変える時期や程度は労働者個々人の事情によりさまざまです。が求められるようになるなかで、定年制をはじめとする労働条件の変更や引退の年齢に関するルールは、人事の調整・刷新機能以上に、労働者がこれからの働き方を考えていくうえでのガイドラインやきっかけとして機能し、一人ひとりの仕事や生活に対する意向を尊重するような形でその役割をはたすことが、今後求められていくものと考えられます。一方で、定年をきっかけに自らの仕事のあり定年制や雇用確保措置における上限年齢は、少子化により、高齢者のよりいっそうの活躍労働条件の変更や引退の年齢を※2 JEED『65歳定年時代における組織と個人のキャリアの調整と社会的支援-高齢社員の人事管理と現役社員の人材育成の調査研究委員会報告書-』(2018年)※3 岸田泰則「高齢雇用者のジョブ・クラフティングの規定要因とその影響ー修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチからの探索的検討」『日本労働研究雑誌』703号(2019年)2023.810

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