べき点もあります。原則的にはどのような社員に対しても正社員としての労働条件や期待を提示することになるため、個別かつ柔軟な条件を設定しにくいといえます。そのため、広く賃金水準を高める傾向になりやすく、人件費は高めに推移しがちです。次に、再雇用の利点として、60歳時点であらためて雇用契約を結び直すため、「意識や役割の切り替え(心機一転)」を広くうながしやすい点があります。60歳前の職務や処遇条件を一旦リセットしたい場合に向いています。また、定年延長とは違い、労働条件や期待を個別かつ柔軟に設定しやすいため、人件費は相対的に低く推移します。一方で、定年という大きな区切りを経ることによって、貢献意欲が低下するケースがあります。再雇用を採用する企業のなかには、一律的に60歳を境に大きく年収水準を引き下げ、それによって再雇用者のモチベーションを低下させてしまっている会社がありますが、再雇用を採用する場合でも、貢献度と賃金水準のバランスを適切にとることが必要です。3あ選択するための視点らためて「定年延長」を採用すべきか、「再雇用」を採用すべきか、その問いに答えようとするときに大事になってくるのが「①社員一人ひとりがもつ能力を最大限発揮できる職務を与え、②その貢献度に応じて報いる」という人材マネジメントの原則に立ち戻ることです。前述①に関連し、60歳超社員が活躍できる職務を与える余地がどの程度あるかを見きわめる必要があります。多数の社員に活躍しうる職務を与えられるのであれば「定年延長」がマッチし、想定される職務が限定的であれば「再雇用」がマッチします。次に、前述②に関連し、60歳超社員の貢献度に相応しい賃金水準引上げや再配分がどの程度可能かを判断する必要もあります。定年延長では60歳前と同様の貢献が期待されるため、同一労働同一賃金の観点から賃金水準を60歳前後で大きく変更しにくく、賃金水準が高止まりしがちです。そのため、賃金水準引上げや原資捻出の余地が大きければ「定年延長」がマッチし、余地が小さければ「再雇用」がマッチします。それでは、それぞれ詳しく見ていきましょう。4職大きさ」を見きわめる務の付与に強い影響を及ぼすのが、要員構成です。要員構成の現状把握と将来予測をふまえ、60歳超社員の要員ニーズを見きわめることが必要です。の供給量」という関係が多くの職務で見込まれるのであれば、60歳前後で継続した貢献をうながす「定年延長」がマッチします。その逆の関係であれば「再雇用」がマッチします。リュームゾーンがあり、30代半ば〜40代に大きなへこみがある「ひょうたん型」の人員構成が一般的です。「ひょうたん型」の組織は、現状だけ見ると、50代のベテラン層が厚く、安定的に事業運営しやすい特徴がありますが、5〜10年後には、主要な役職や職務をになうべき年齢層のボリュームが少なくなるため、必要な幹部人材やキープレイヤーが不足することが見込まれます。現在の50代が60歳で定年となるまでに中間層の基幹人材への育成が間に合わないようであれば、60歳超社員に引き続き最前線で働いてもらうことが必要となります。り、若い世代の抜擢を含めて基幹人材層の新陳代謝をうながしたい場合、60歳超社員には、早い段階から後進育成に役割をシフトしてもらいます。この場合、特定の技術やスキルをもって高い貢献を期待できる方とそうでない方とで期待役割や賃金水準を柔軟に変えられる「再雇用」端的にいえば「要員の需要量伝統的な日本企業では、30代前半と50代にボ一方、若手・中堅社員の質量が確保できてお>60歳未満人材「定年延長」か「再雇用」か、「活躍する職務を与える余地の2023.812
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