エルダー2023年8月号
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が望ましいでしょう。1年ごとの貢献度を見きわめて処遇も柔軟に変更できます。ただし、柔軟に活用することを重視する場合でも、60歳超の雇用に対する安心感を醸成したいなどの意向から、「定年延長」を採用したうえで、1社2制度(例:60歳前は職能資格制度・60歳以降は職務等級制度で正社員の人事制度を構成)などの制度上の工夫も考えられます。前述した視点に加えて、「定年延長」か「再雇用」かの意思決定をする際には、将来を織り込むことも肝要です。一つ目は、経営戦略や技術革新なども含めた要員ニーズの変化です。例えば、AIやRPAなどの技術の積極活用により生産性向上が実現できそうであれば、60歳超社員に対する要員ニーズは低下します。経営および関係部門とも連携しながら、自社の業態・ビジネスモデルにおける要員調達ニーズの変化を織り込む必要があります。二つ目は、70歳までの就業確保措置の努力義務化による「人材の出口戦略(どのタイミングで、どのような形で退職・卒業することをうながすか)」の変化です。満65〜69歳まで5年分の人材を追加して雇用することになりますが、5年分の人材の職務を新たに用意するのは相当ハードルが高いです。将来的に要員を適正化するため、技術の進展などにより労働力を代替できる可能性を視野に入れながら、新規採用を抑制する部署を定めたり、中高年齢層の人材が余剰となる場合には早期退職をうながす仕組みを導入することなども選択肢となってきます。「定年延長」の場合、60歳超社員の賃金水準引上げを検討するうえで、各社がどの程度まで引き上げているのか、世間データを参考にお示しします。独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)の調査(図表2)によると、59歳時点の賃金水準(基本給と賞与)を10割とした場合の65歳時点の賃金水準は「10割以上」が「9割」の8・5%、「8割」の10・4%を加えれば、「59歳時点の賃金の8割以上」という企業が77・2%を占めています。国家公務員の定年延長時の賃金が7割水準であることもふまえると、「定年延長」を採用するからには59歳到達時の7〜8割程度の水準は最低限ねらって設計したいところです。定年延長による賃金水準の引上げを想定する場合に、企業が引上げ原資をすべて負担できればよいですが、そのような企業はごく一部です。べ賃金水準が高いケースがあれば、貢献度と賃金水準を整合させるなど、あるべき姿への是正を図るとともに、原資捻出の余地がどれほどあ5「余賃地金の水大準きのさ引」上をげ見・き原わ資め捻る出の出典: (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)『定年延長、本当のところー調査結果を読み解く、課題と効果ー』(2019年)60歳前の人事処遇制度で、企業への貢献度に比58・3%と、全体の約6割を占めています。7.6%7.6%10.4%10.4%5.4%5.4%8.5%8.5%58.3%58.3%9.7%9.7%20%30%40%7割8割50%60%70%80%9割10割以上90%無回答n=1,840100%13特集どっちがいいの?「定年延長」と「再雇用」エルダー図表2 59歳時点の賃金水準を10割とした場合の65歳時点の賃金水準0%10%6割以下

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