控訴審における結論について最高裁の判断整手当は、⑥割増賃金総額から④時間外手当を控除した額と一致するように、⑥から④を控除した金額によって計算することとされていました。そのため、⑦賃金総額は、時間外労働の時間数に関係なく、定額となるよう調整されていました。なお、平均的な時間外労働は月あたり80時間弱となっていましたが、この制度のもとで、割増賃金が追加で支給されることはなかったようです。2固定残業代は、時間外割増賃金の支払い方法として有効になり得るものと判断されてきました。最高裁においても、「労働基準法37条は、労働基準法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまり、使用者は、労働者に対し、雇用契約に基づき、上記方法以外の方法により算定された手当を時間外労働等に対する対価として支払うことにより、同条の割増賃金を支払うことができる」として固定残業代自体を許容しつつ、その有効となる要件として、「使用者が労働者に対して同条の割増賃金を支払ったものといえるためには、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要である」と判断しています。最高裁判決では、⑴時間外労働の対価であること(対価性)および⑵「通常の労働時間の賃金」と「割増賃金」を判別できること(明確区分性)のいずれもが必要とされています。⑵については、基本給などを割増賃金計算の基礎となる「通常の労働時間の賃金」としたうえで、別途手当として「割増賃金」を支給することで充足することができそうであり、熊本総合運輸事件の控訴審でも、このことから、固定残業代が割増賃金として区別されており、判別可能であるということを前提に、労働基準法第37条に基づき支給が必要な割増賃金が支払われたものということができるという結論に至り、使用者の主張を一部認める判断をしていました。3本件について最高裁は、控訴審判決の結論を是認することなく、結論を覆し、固定時間外手当は割増賃金の対価として支払われたとはいえないと判断しました。おもに問題となったのは、⑤調整手当は、④時間外手当の計算結果と完全に連動しており、④が定められれば、必然的に⑤が確定するという関係にある点です。このような区別について、④時間外手当と⑤調整手当は、区別されているものの、結局、一体として合算した金額が一つの趣旨(時間外割増賃金に対する対価の支払い)を有しているというほかないと判断されました。結局のところ、④時間外手当+⑤調整手当=実質的な固定残業代となっていたということです。そして、「その実質において、時間外労働等の有無やその多寡と直接関係なく決定される賃金総額を超えて労働基準法37条の割増賃金が生じないようにすべく、(中略)賃金の一部につき、名目のみを本件割増賃金(※筆者注:⑥に相当する賃金のこと)に置き換えて支払うことを内容とする賃金体系であるというべき」と判断されています。整手当の合計額が、労働基準法第37条に定める割増賃金として支給されており、超過した金額が支払われることがまったくなかったことからすると、平均80時間弱という時間外労働を前提として算定される金額を上回る調整手当が支給されていることになります。そのため、実際の勤務状況に照らして想定しがたい程度の長時間の時間外労働などを見込んだ過大な割増賃金が支払われる賃金体系になっていることになり、時間外労働の多寡と直接関係なく決定される⑦賃金総額を超えて労働基準法第37条の割増賃金が発生しないようにすることを目的としていると評価されました。その前提として、④時間外手当および⑤調そのような状況に加えて、⑥には、通常の43エルダー知っておきたい労働法AA&&Q
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