エルダー2023年8月号
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イクロアンペアの単位で「ごく微小な電流を短い時間だけ使う」といった回路が必要になってきます。また、筐体が大きいとドアノブなどと干渉して設置できる場所がかぎられてしまうので、限界まで小型でスタイリッシュに、というミッションもありました。そうすると筐体に収められる基盤の形状やサイズがかぎられてきます。そこに電力効率のよい回路をどう収めるのか、といった複雑な課題がいくつも見出されてくるのです。しかも、これらの課題解決の前に立ちはだかっていたのは、量産化までの期限が〝半年〟と決められていたことでした。もちろん、この課題はすべてを避けて通ることはできず、全部解決しなければならないため、たった半年という短い期間のなかで、その一つひとつに対して、深谷さんと一緒に「どこに問題があるのか?」にまでさかのぼって原因を探したり、問題点がみえたときに「どうやってそこを改善していくのか?」を議論したりと、本当に一体となって粘り強くクリアしてきました。ふり返れば、20代の若者が日々徹夜してワイワイやっている空間に、シニア人材の深谷さんが定期的に来社して、そこで違和感なく議論や作業をしながら解決策を一緒に見出していく、という不思議なひとときだったと思います。この段階で深谷さんの知見が活かされた事例としてあげられるのが、シミュレーターを活用した回路設計です。「回路のシミュレーター」とは、設計した回路に発生する電圧や波形を実験ではなくコンピュータ上で計測するツールです。現在は、開発予算や期間の削減のために使うことがあたり前になっています。当時の私も使いたいと考えていましたが、最新のソフトウェアの使い方を深谷さんから教えていただいたことが印象的でした。これは深谷さんご自身が、もともと開発者として「無駄な試作をなるべく減らす」という信念をお持ちで、設計段階で少しでも精度を上げていくことをとても重要視されているために使われていたツールです。こうした技術についてもワールドワイドなトレンドに合わせてずっとキャッチアップしていたり、あるいは海外の現場で使われていたことがあった、といった知見が活かされているのかなと思います。段階ではこういうことを考慮すべき」というところまでを教えてくれるのが基本的な期待値だと思います。しかし、それ以上にシミュレーターの活用をすすめるとともに使い方も教えてくださり、そのうえ自らやって示してくれるといったところは、いわゆるアドバイザーへの期待値を超えた、深谷さんならではのスキルです。たのが電子部品の選定です。量産品ではすべての部品に高いQCD(クォリティ・コスト・デリバリー)が求められますので、性能はもちろん、できるだけコストが低く、安定して供給される部品が必要です。それには海外を含めたメーカーや商社に関する深谷さんの知見が大きく役立ちました。その部品の電気的な特性や、形やサイズなどについて多くのアドバイスを得て、最適な部品を調達することができました。半年間での量産化を達成するという当社のミッションクリアに大きく貢献していただきました。これは推測ですが、海外での教育経験から、一般的なアドバイザーとしては「回路の設計そしてもうひとつ深谷さんが大きくかかわっこうして本当にギリギリではありましたが、つづく開発者の信念に基づいたアドバイスは期待値を超える結果をもたらした右端が最初期の筐体モック。試作をくり返し、左にいくにしたがい筐体が小さくなっていった。単3乾電池の隣が実際の製品(写真提供:株式会社Photosynth)47エルダースタートアップシニア人材奮闘闘記

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