エルダー2023年8月号
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人的資本の実践に向けて何をすべきか軟に変えていかなければならないとの課題認識が人的資本への転換の必要性の背景になります。また、従来の日本企業の人事は管理の側面が強く、環境変化へ十分に対応しきれていなかった反省も背景としてあることを理解しておきたいところです。定義と背景を押さえたところで、人的資本の実践に向けて何をすべきかについて見ていきたいと思います。2022年5月に公開された「人材版伊藤レポート2・0」では、図表のように八つの取組み視点とそれぞれの取組み項目が記載されています。具体的には伊藤レポート2・0を読んでいただければと思いますが、図表で概要はつかめると思います。ただし、取組み内容の策定と実践にあたりいくつかのポイントがあるためここで記載します。・事業内容や置かれた環境によって有効な打ち手は異なるため、チェックリスト的に取り組むものではないこと。・最も重要な視点は「経営戦略と人材戦略の連動」であり、ここに掲げる取組みに着手することが第一歩であること。・課題を特定し、優先順位をつけ、改善を重ね的資本の趣旨に則れば、環境変化が激しいなかで企業を成長させるためには、経営戦略とそれを実現するための人材戦略を表裏一体で策定し、実行することが必要不可欠です。個別の取組み施策を考えるよりもはるかにむずかしいのですが、社内で最も時間と労力をかけて検討すべき部分となります。は、内容や結果を可視化して、投資家や社員に示すことです。社内外の目に触れることにより、より真剣に実践することが期待されます。特に、上場企業においては今後、企業を持続的に成長させていけるかどうかを投資家が判断するための重要な要素となります。そのため、2023年3月期の有価証券報告書より、女性管理職比率、男性育児休業取得率、男女間賃金差異のほか、人材育成方針、社内環境整備方針およびこれらに関する指標を用いた目標・実績などの項目について、人的資本の情報を記載するよう義務づけられるようになりました※3。個社別の取組み内容や状況については、今後はこの開示情報が参考になると思われます。ていく絶え間ないサイクルを中長期的な観点で実施すること。特に、「経営戦略と人材戦略の連動」は、人取組み内容の策定と実践に並行して重要なの次回は「就業機会の確保」について解説します。※3 開示にあたり求められる内容については、根拠法に基づく1.経営戦略と人材戦略を連動させるための取組①CHROの設置②全社的経営課題の抽出③KPIの設定、背景・理由の説明④人事と事業の両部門の役割分担の検証、人事部門のケイパビリティ向上⑤サクセッションプランの具体的プログラム化(ア)20・30代からの経営人材選抜、グローバル水準のリーダーシップ開発(イ)候補者リストには経営者の経験を持つ者を含める⑥指名委員会委員長への社外取締役の登用⑦役員報酬への人材に関するKPIの反映2.「As is - To beギャップ」の定量把握のための取組①人事情報基盤の整備②動的な人材ポートフォリオ計画を踏まえた目標や達成までの期間の設定③定量把握する項目の一覧化3.企業文化への定着のための取組①企業理念、企業の存在意義、企業文化の定義②社員の具体的な行動や姿勢への紐付け③CEO・CHROと社員の対話の場の設定出典:内閣官房(2022)「人的資本可視化指針」4.動的な人材ポートフォリオ計画の策定と運用①将来の事業構想を踏まえた中期的な人材ポートフォリオのギャップ分析②ギャップを踏まえた、平時からの人材の再配置、外部からの獲得③学生の採用・選考戦略の開示④博士人材等の専門人材の積極的な採用5.知・経験のダイバーシティ&インクルージョンのための取組①キャリア採用や外国人の比率・定着・能力発揮のモニタリング②課長やマネージャーによるマネジメント方針の共有6.リスキル・学び直しのための取組①組織として不足しているスキル・専門性の特定②社内外からのキーパーソンの登用、当該キーパーソンによる社内でのスキル伝播③リスキルと処遇や報酬の連動④社外での学習機会の戦略的提供(サバティカル休暇、留学等)⑤社内起業・出向起業等の支援7.社員エンゲージメントを高めるための取組①社員のエンゲージメントレベルの把握②エンゲージメントレベルに応じたストレッチアサインメント③社内のできるだけ広いポジションの公募制化④副業・兼業等の多様な働き方の推進⑤健康経営への投資とWell-beingの視点の取り込み8.時間や場所にとらわれない働き方を進めるための取組①リモートワークを円滑化するための、業務のデジタル化の推進(出所) 経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書」(人材版伊藤レポート2.0)(2022年5月)を基に作成。49エルダー■■■■■■■■いまさら聞けない人事用語辞典図表 「人材版伊藤レポート2.0」の全体像

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