ないかと予想されるからである。他方、60代前半社員の基本給の金額が現役正社員時代よりも低下することは、企業の総額人件費にはプラスの効果を生み出すことになり、その結果、「65歳以降の社員」の雇用につながると考えることもできる。第4に、現役(59歳以下)正社員の雇用管理と報酬管理が「65歳以降の社員」の雇用の有無に影響を与えるのではないかと考えられる。雇用管理のなかでも、年齢別の「配置・異動の管理」を表している要員管理が重要である。具体的には、今後の会社の成長をになうような仕事に十分な人員(30歳以上45歳未満の正社員)が配置されているかどうかということである。十分な人員が配置されていない場合には、「65歳以降の社員」で代替する方針を採用する可能性が高くなる。後者の報酬管理のなかでは、賃金制度によって決まる現実の賃金額(基本給の金額)の構造(賃金カーブ)が重要である。これは正社員が入社から定年までの長い期間で、どの程度賃金(基本給)を支給するのかを表している。日本企業の場合には、入社から定年までの長い期間のなかで会社と正社員の間で貸し借り決済する長期決済型賃金(中堅層の賃金を低めに抑え、中高年層の賃金を高めに設定する賃金カーブ)がとられている。こうした賃金制度は長期決済が終わる定年直前の賃金が会社への貢献度を上回る水準にあるため、60代前半社員の賃金を決めるにあたって、この貢献度を上回る賃金部分を調整せざるを得ない状況にある。以上のような整理をふまえて、「65歳以降の社員」を雇用しているのはどのような特徴をもっている企業であるかをみると(図表)、第1に、業種では「建設業」および「運輸業、郵便業」で「65歳以降の社員」を雇用している企業が多く、これに対して、「情報通信業」で少なくなっている。なお、正社員規模と「65歳以降の社員」の雇用状況の間に関係は見られない。第2に、企業の60代前半社員の活用方針と「65歳以降の社員」の雇用状況の間に関係は見られ、「(60代前半社員を)第一線での活躍を期待」している企業ほど、「65歳以降の社員」を雇用している企業が多くなっている。このことは、現役正社員を指導する60代前半社員ではなく、特定分野の業務を独立して担当するプロとして勤勉に働く60代前半社員を65歳以降も引き続き雇用していることを表していると考えられる。同様に、60代前半社員の活用の効果と「65歳以降の社員」の雇用状況の間に関係は見られ、活用することによって、職場の生産性向上の効果があったと考えている企業ほど、「65歳以降の社員」を雇用している企業が多くなっている。経営特性(注) 「定年64歳以下&継続雇用65歳以下の企業」の回答出典: (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)(2023)『高齢期の人事戦略と人事管理の実態〜60歳代後半層の雇用状況と法改正への対応』(資料シリーズ6)調査数いるいない無回答1.2 191268.0 30.8 0.8 12390.2 8.9 建設業0.8 64369.7 29.5 製造業11838.1 58.5 3.4 情報通信業0.6 17878.7 20.8 運輸業、郵便業1.5 67.2 31.4 408卸売業、小売業0.0 6261.3 38.7 金融業、保険業、不動産業、物品賃貸業0.0 4658.7 41.3 宿泊業、飲食サービス業27765.3 33.2 1.4 サービス業0.0 51.9 48.1 27その他1.3 7967.1 31.6 100人以下0.8 114666.8 32.5 101〜300人0.6 71.0 28.4 341301〜500人21567.0 30.2 2.8 501〜1000人3.4 11973.9 22.7 1001人以上0.9 第一線での活躍を期待である23380.3 18.9 1.3 どちらかといえば第一線での活躍を期待である62972.2 26.6 0.7 どちらかといえば現役社員の支援を期待である73868.2 31.2 1.2 24459.4 39.3 現役社員の支援を期待である効果があった18272.0 27.5 0.5 0.7 71.7 27.6 1051ある程度効果があった0.8 524あまり効果がなかった67.4 31.9 0.0 6256.5 43.5 効果がなかった1.3 53964.2 34.5 仕事内容が変わる可能性は、全員にある仕事内容が変わる可能性は、一部にある73571.8 27.2 1.0 0.5 57472.6 26.8 60歳以降は、原則として変えない0.5 20370.9 28.6 同じ1.5 19773.6 24.9 どちらかといえば同じ1.1 265どちらかといえば異なる71.7 27.2 異なる117568.5 30.5 1.0 0.9 44873.4 25.7 不足している1.5 74066.8 31.8 やや不足している0.8 62666.8 32.4 適正である0.0 7162.0 38.0 やや過剰である過剰である728.6 71.4 0.0 0.7 84070.7 28.6 59歳まで上昇する1.5 84965.5 33.0 ある時点から横ばいになるある時点から下降する20466.7 33.3 0.0 【活用方針】第一線での活躍を期待VS現役社員の支援を期待60歳前半層の活用方針・活用効果【活用の効果】職場の生産性向上の効果【配置管理】仕事内容の変更の可能性60歳前半層の雇用管理と報酬管理基本給の決め方(59歳以下の正社員との継続性)【要員管理】30歳以上45歳未満 の59歳以下の正社員の配置管理と報酬管理正社員の過不足状況【人件費管理】基本給の決まり方(賃金カーブ)業種別規模別全体2023.852図表 「定年64歳以下&継続雇用65歳以下の企業」で60歳代後半層を(単位:%) 雇用しているのはどのような企業か
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