エルダー2023年8月号
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第3に、雇用契約の更新時に仕事内容が変わるかどうかという「配置・異動の管理」と「65歳以降の社員」の雇用状況の間に関係は見られ、「60歳以降は、原則として変えない」企業ほど、言い換えれば、60代前半社員の能力や意欲と担当している仕事の間にミスマッチが起きていない企業ほど、「65歳以降の社員」を雇用している企業が多くなっている。これに対して、60代前半社員の基本給の決め方(59歳以下の正社員との継続性)にかかわらず、雇用している企業の比率はほぼ同じである。59歳以下の正社員との継続性が希薄な決め方によりモチベーションが低下しても、そのことにより、60代前半社員の活用の結果に大きな影響を及ぼしてはいないと考えているからである。第4に、現役(59歳以下)正社員の要員管理と「65歳以降の社員」の雇用状況の間に関係は見られる。今後の会社の成長をになうような仕事に十分な人員(30歳以上45歳未満の正社員)が配置されていない企業ほど、「65歳以降の社員」を雇用している企業が多くなっている。不足している「30歳以上45歳未満の正社員」が担当している仕事の一部を65歳以降の社員を雇用することで代替していると考えられる。他方、「現役(59歳以下)正社員」を対象にした賃金制度によって決まる現実の賃金額(基本給の金額)の構造(賃金カーブ)と「65歳以降の社員」の雇用状況の間に関係は見られない。定年を契機に変動する賃金(基本給)額と「65歳以降の社員」の雇用状況の間に関係がみられないのは、「定年64歳以下&継続雇用65歳以下の企業」における60代前半社員の雇用契約は有期雇用が多くを占め、かつ、雇用期間は1年以下が多いため、現役正社員の賃金制度と有期雇用労働者である60代前半社員の賃金制度とを区別しているからであると予想される。70歳までの雇用を進めていくためには、ある年齢以上(あるいはあるキャリア段階以降)の「現役(59歳以下)正社員」の賃金制度と60代前半・後半に関係なく、(例えば、仕事と成果で決める仕組みの導入など)にしていく必要があると考えられる。4企業人の事人事管管理理のは整社備員(雇用)区分制度と社員格付け制度からなる基盤システムとサブシステムから構成されている。サブシステムは大きく、職場や仕事に人材を供給するための管理機能をになう「採用」、「配置・異動」、「能力開発」および「雇用調整・退職」から構成される雇用管理、社員の働く環境を管理する機能をになう「労働時間管理」および「安全衛生管理」から構成される労働条件管理、社員に給付する報酬を管理する機能をになう「賃金管理、昇進管理、福利厚生」から構成される報酬管理、の3分野からなっている。さらに、基盤システムとサブシステムをつなぐ連結ピンの役割をになっているのが人事評価である。置・異動の管理」は原則として60代前半社員と同じ仕事内容で、かつ、勤務場所や職場が変わることはほとんど「ない」と考えられる。それは、「65歳以降の社員」が「生活・健康」(本人の健康や家族等の健康や介護など)と「仕事」を両立できる場所や時間で働くことを希望する社員である特徴をもっているからである。そのため、雇用管理(「配置・異動の管理」や「能力開発」)よりも「労働条件管理」のなかの「労働時間管理」や「安全衛生管理」が重要になってくると考えられる。めには、「生活・健康」と「仕事」を両立できるような柔軟な労働時間制度(例えば、1日の勤務時間を短くする短時間勤務や1週間の勤務日数を減らす短日数勤務制度など)が導入されているかどうか重要になってくる。こうした柔軟な労働時間制度は60歳代後半層の活用課題として多く指摘されている「モチベーションの向上」にも大きく貢献すると考えられる。しかしながら、現実は厳しい状況にあり、報告書のアンケート結果から明らかなように、6割弱の企業しか「短時間・短日数勤務制度」を導入しておらず、制度として時間的な配慮をする仕組みを十分整備されているとはいえない状況にある。柔軟な労働時間制度の整備が求められる。※ここで取り上げた報告書の執筆に際して、JEEDの鹿生治行上席研究役から協力を得ました。記して謝意を表します。60歳代後半層の活用と特別寄稿60歳代後半層の活用と人事管理の整備60歳代後半層の雇用管理の中核をになう「配60歳以降の社員の賃金制度が同じような仕組み60歳代後半層が安心して働くことができるた53エルダー

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