の待遇差(賞与を含む年収ベースで約79%に低下)を違法であるとして争ったものです※1。この事件では、嘱託の①職務内容、②人材活用の仕組みのいずれも正社員と同じであることから、これらが異なるケースに比べて待遇差の不合理性が認められやすいといえる事案でした。最高裁は、待遇差が不合理といえるかどうかの判断枠組みとして、次の考え方を示しました。を比較するのみならず、個別の賃金項目ごと(つまり、基本給、各手当、賞与のそれぞれについて)に考慮されるとして考慮される渉などを通じた労使自治に委ねられるべき部分が大きいことから、団体交渉を通じて労働条件を決定したという事実も③その他の事情として考慮されるそのうえで、それぞれの賃金項目の待遇差の不合理性について、図表1のように判断しましたが、このなかで待遇差が不合理であると認められたものは、事実上精勤手当のみでした。再雇用が③その他の事情にあたることで、・待遇差が不合理かどうかは、賃金の総額・再雇用者であることは、③その他の事情・賃金などの労働条件のあり方は、団体交ただちに待遇差が肯定されることには当然なりませんが、一般論として、通常の短時間・有期雇用労働者と比べると再雇用者は待遇差が是認される方向に働きやすいといえるでしょう。今年の7月に出された「名古屋自動車学校事件」(最高裁令和5・7・20判決)です。この事件は、自動車教習所の教習指導員が定年後の待遇は旧労働契約法第20条に照らして不合理であるとして争った事案です。この事案も、定年の前後で①職務内容、②人材活用の仕組みともに同じであり、長澤運輸事件と共通しています。後で、基本給は5割以上減っており、賞与は不支給ではないものの、基本給と連動する仕組みにより大きく減額されていました。下級審は、労働者の生活保障の観点からこのような低下幅は看過しがたいとして、正社員の6割を下回る部分を違法(つまり最低でも6割は支給するべき)と判断しました。これに対して最高裁は、原審は基本給および賞与の性質や目的をふまえた検討を行っておらず、また労働組合等との労使交渉については結果に加えて、その経緯についても検討すべきだったとして、高裁判決を破棄し、差し戻しました。つまり、単に待遇の低下幅が大きいという事実のみをもって不合理性そして、もう一つ確認しておきたい裁判例が、争われた待遇は基本給と賞与です。定年の前17図表1 長澤運輸事件における待遇差の不合理性について賃金項目基本給精勤手当(いわゆる皆勤手当)住宅手当・家族手当役付手当賞与待遇差が不合理かどうか判断の理由※筆者作成正社員: 基本給・能率給・職務給嘱託: 基本賃金・歩合給※1 この裁判例は、均衡待遇を定めた旧労働契約法第20条について争われたものですが、その後働き方改革関連法によって同規定は削除され、パート有期法第8条に移されました。「均衡待遇」に関する判断枠組みは、移行後も基本的には異ならないものと考えられますので、本稿では長澤運輸事件の考え方はパート有期法第8条に照らした場合にも同様にあてはまるものとして、執筆しています不合理ではない不合理不合理ではない不合理ではない不合理ではない基本給の趣旨・目的を考慮したうえで、次の点をふまえ不合理とはいえないとした・正社員の基本給(基本給・能率給・職務給の3種類で構成)と嘱託の基本給(基本賃金・歩合給の2種類で構成)を比較した場合、相違が2~12%程度にとどまっていること・嘱託の基本給について、収入の安定や賃金への成果反映などの点で工夫されていること・要件を満たせば老齢厚生年金を受給でき、年金の支給開始までの期間は調整給(2万円)が支給されること出勤を奨励する必要性は正社員も嘱託も変わらず、不合理な待遇差にあたるこれらの生活補助は、幅広い世代がいる正社員に支給する制度上の意義が認められる一方、嘱託はすでに定年退職しており、老齢年金の受給も予定されていることから、不合理とはいえないあくまでも役付者であることに対して支払われるものであり、年功給や勤続給のような性格の手当とはいえないので、不合理とはいえない賞与は、労務の対価の後払い、功労報償、生活費の補助、労働者の意欲向上など、多様な趣旨を含み得るとしたうえで、次の点をふまえ不合理とはいえないとした・定年退職の際に退職金の支給を受けていること・老齢厚生年金の支給を受ける予定であること・生活費の補填として調整給が支給されていること・年収が定年退職前の79%程度にとどまり、嘱託の収入の安定に配慮されていること
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