エルダー2023年9月号
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に意図されているかはさておき)運用されているのではないでしょうか。典型例としては、正社員については「基本給は、会社業績、各人の職務遂行能力、勤続年数、経験、成果等を総合的に勘案して決定する」などと定めて長期雇用を前提に年功的な要素を含んだ基本給とする一方で、再雇用者については年功的な要素は加味せずに担当業務の内容に基づいて決定する職務給的な基本給とする、といったケースです。このような場合は、それぞれの制度の性質、目的が異なることに加え、定年後再雇用であることが③その他の事情にあたることから、一般論としては同じ基本給制度を適用しているケースに比べ待遇差が肯定されやすくなるといえるでしょう※2。再雇用者に関しては、「基本給は時給とし、雇用契約書により個別に定める」といったシンプルな規定としているケースがよく見られますが、今後は基本給を適切に運用することを目的として、例えば「基本給は、本人の職務内容に応じて決定する」、「職務内容に変更があった場合に限り、変更後の職務内容に応じて基本給を改定する」などと定め、正社員とは異なる制度であることを明確にしておくことも考えられるでしょう。(2)諸手当ここでは、諸手当を図表2の2種類に分けて考えてみます。長澤運輸事件で精勤手当(皆勤手当)の不支給が不合理な待遇差とされたように、業務直結型手当の性質や目的を考えると、原則として待遇差を設けるべきではないといえるでしょう。ただし、裁判例を見ると、これらの手当に相当する部分が基本給などに組み込まれているといったケースも見られ、不支給の理由を合理的に説明できる場合には賃金全体のバランスという観点から許容される可能性はあります。族手当については、長澤運輸事件は幅広い世代がいる正社員に支給する制度上の意義を認め、不合理な待遇差ではないとしていますが、その後の下級審の裁判例で不合理とされたものもありますので(令和3・3・23神戸地裁姫路支部判「科学飼料研究所事件」)、検討する際にはあわせて確認しておくとよいでしょう。通勤手当や食事手当については、通勤や食事に費用を要することは正社員も再雇用者も変わりませんので、これらも原則として待遇差を設けるべきではないといえます。支給基準が明確に規定されているケースが多く、ほかの待遇に比べて検証もしやすいかもしれません。実務で意外に問題となりがちなのが通勤手当で、例えば月の支給上限額に差異があったり、あるいは非正規社員の通勤手当は1日につき一律○○円としているなど、過去からの経緯などもあって明確な意図がなく待遇差が設けられているケースは少なくありません。これを機に、自社の手当に関する規定を再度チェックしてみてもよいでしょう。(3)賞与待遇差とはいえないという結論でしたが、名古一方、生活保障型手当のうち、住宅手当や家諸手当については給与規程などで支給目的や長澤運輸事件では、賞与の不支給は不合理な19図表2 諸手当のタイプ業務直結型手当生活保障型手当タイプ内容具体例※筆者作成※2 厚生労働省の「同一労働同一賃金ガイドライン」(平30.12.28厚労告430号)は、賃金の決定基準・ルールに相違があることが待遇差の要因になっている場合について、「将来の役割期待が異なるため、賃金の決定基準・ルールが異なる」といった主観的、抽象的な説明では足りないとしたうえで、その相違は「通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものの客観的及び具体的な実態に照らして、不合理と認められるものであってはならない」としています業務の遂行と密接な関係のある手当従業員の生活費の補填を目的とする手当役職手当、皆勤手当、特殊作業手当、特殊勤務手当など家族手当、住宅手当、通勤手当、食事手当など

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