屋自動車学校事件の内容から、再雇用であるという事実をもってただちに賞与の不支給が認められるわけではないことはすでに述べた通りです。賞与について待遇差を設けるのであれば、基本給と同様に、異なる目的・性質の賞与制度として使い分けることがポイントになるでしょう。規定の一例として、正社員については「賞与の支給額は、会社業績および算定対象期間における各人の成果、勤務成績、勤務状況等にかかる査定結果にもとづき個別に決定する」と定め、再雇用者については、「会社業績が良好なときは、○○円の範囲で一律に賞与を支給することがある」などといったように、賞与制度の違いが明確にわかるように定めておくと、規定に沿った運用や待遇差の説明もしやすくなるでしょう。(4)その他均衡・均等待遇は、賃金を含むすべての待遇を対象としていますが、このうち特に判断が悩ましいのは休暇制度などを含めた福利厚生の取扱いではないかと思われます。給食施設・休憩室・更衣室といった福利厚生施設については、法令で非正規社員などにも利用の機会を与えなければならないとされていますので(パート有期法第12条、パート有期法施行規則第5条)、特段の事情がないかぎり正社員と同様の使用を認める必要があります。一方、休暇や休職については、(再雇用者ではない)非正規社員の事案で裁判例が複数あり、また同一労働同一賃金ガイドライン(以下、「ガイドライン」)でも言及されていますが、これらの判断はひとことでいえばケースバイケースであり、裁判例とガイドラインで結論が異なるものも少なくありません。さらに、例えば慶弔見舞金など、判断が示されていない福利厚生制度もあります。そこで、これらについては、裁判例などで具体的な考え方が示されるまでは、就業規則に制度がある旨のみ定めておき、詳細は本人と都度協議しながら決定するといった運用も考えられます。例えば休職については、私傷病休職を命じることがある旨を定めたうえで、「休職期間については、本人の職務内容、健康状態、所定労働時間および勤続年数等を総合的に勘案のうえ、都度個別に決定する」などとしておくと、裁判例の動向や対象者の実態などに応じた対応が可能となります。再雇用者の働き方は人によってさまざまといったケースも想定されますので、柔軟な運用を確保できる意義は小さくないのではないかと思われます。ける場合の考え方について見てきました。同一労働同一賃金という規制の性格上、本稿では待遇差を設ける場合に重点を置いて説明してきましたが、一方でこれまで見られた"定年後再雇用時に労働条件を低下させるのは当然である"といった考え方は、近年変わりつつあります。すなわち、人手不足の深刻化を背景に、高齢者を貴重な戦力として積極的に活用するとともに、その貢献に見合った処遇を行うことで人材の定着・確保を図ろうという企業が増えてきているということです。こうした方針のもとでは、法令違反を避けるためではなく、自社の処遇制度の一貫性を維持する目的で均衡・均等待遇の実現を図ることになり、再雇用者を含むすべての従業員の納得をより得られやすいのは間違いないでしょう。を考えたとき、再雇用者の待遇を単なる法律問題としてとらえず、中長期的な視点で自社に即した待遇、制度を検討していくという姿勢が、今後ますます求められるようになるのではないでしょうか。人手不足がわが国の構造的な問題であること2023.92044以上、お再わ雇り用に者の待遇と就業規則に規定を設
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