エルダー2023年9月号
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支給はないものの嘱託社員には一時金を支給することがある旨も定められていました。訴えていた労働者の基本給などの変動は図表の通りです。なお、2人の労働者が訴えていますが、ほぼ同程度の金額であるため、1人のみの図表としています。定年退職後には、老齢厚生年金および高年齢雇用継続基本給付金の受給を受けていますので、収入全体でいうと、これらの金額のみではありませんでした。2地方裁判所および高等裁判所(以下、「下級審」)までは、以下のような理由から、基本給の60%を下回る部分について、不合理な差異であるとして、違法と判断し、使用者に対して賠償を命じました。判断の前提として、業務の内容、責任の程度、変更の範囲などに関して、「定年退職の前後を通じて、主任の役職を退任したことを除き、業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲に相違がなかった」という点を考慮しています。次に、「基本給及び嘱託職員一時金の額は、定年退職時の正職員としての基本給及び賞与の額を大きく下回り、…勤続短期正職員の基本給及び賞与の額をも下回っている」と、その差異が際立っていたこと、「労使自治が反映された結果」でないこと、「労働者の生活保障の観点からも看過し難い」といった理由で、定年退職時の基本給の額の60%を下回る部分について労働契約法第20条にいう不合理な差異に該当すると判断していました。3最高裁は、下級審判決を是認することなく、高等裁判所へ審理を差し戻しました。そのため、あらためて高等裁判所において判断されることになります。まず前提として、基本給や賞与であったとしても不合理な差異としてはならないということを確認したうえで、「判断に当たっては、他の労働条件の相違と同様に、当該使用者における基本給及び賞与の性質やこれらを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべき」という過去の最高裁判例の基準を踏襲しました(最高裁令和2年10月13日判決、大阪医科薬科大学事件)。そのうえで、「正職員と嘱託職員である被上告人らとの間で基本給の金額が異なるという労働条件の相違について、各基本給の性質やこれを支給することとされた目的を十分に踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、その一部が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断には、同条の解釈適用を誤った違法がある」という結論を導いています。けると、①定年前の基本給の目的と嘱託社員の基本給の目的の相違が不明瞭であること、②労使交渉の結果のみならずその具体的な経緯をも勘案すべきという2点です。視しています。今回の事案における基本給の位置づけについて、定年前の基本給は、勤続年数に応じて額が定められる「勤続給」としての性質のみを有するということはできず、職務の内容に応じて額が定められる「職務給」としての性質をも有する余地があり、また、基本給には功績給も含まれていることから「職能給」としての性質も有する余地があることに加え、長期雇用を前提として役職に就き昇進することが想定されていたこと、役職に対しては「役付手当」が支給されていたがその金額も不明であることなどから、正社員に対して支給されている基本給の性質やその目的が確定不能であるとされました。ことが想定されていないことに加え、正職員とは異なる基準の下で支給され、勤続年数に応じて増額されることもなかったこと等から、正職員の基本給とは異なる性質や支給の目的を有するとみるべきである」とされたう最高裁の判決が考慮した事情は、大きく分一つ目の考慮事項として基本給の目的を重また、嘱託社員についても、「役職に就く控訴審までの判断について最高裁の判断45エルダー知っておきたい労働法AA&&Q

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