ミスリーディングであるともいえるでしょう。まず、前提となる事実を整理しておくことが重要です。原告となった男性の特徴を整理すると、①1998(平成10)年ごろから女性ホルモンの投与を受けており、翌年には性同一性障害であるとの医師の診断を受けている、②2008年ごろから女性として私生活を送っていた、③2011年には名の変更許可審判を受けて男性名から女性名に変更した、④2010年3月ごろまでには、男性ホルモンの量が男性の基準値を大きく下回っており、性衝動に基づく性暴力の可能性が低いと判断される旨の医師の診断を受けていた、⑤性別適合手術については健康上の理由から受けていない、という状態です。いわゆる、自身がLGBTに該当すると述べているだけではなく、医師の診断を重ねていることや、生活状態も女性として振る舞っており、名の変更審判も受けていたという状態という点が特徴的です。経済産業省が、それでもなおトイレの利用について、執務するフロアと上下1フロア離れた女性トイレの利用しか認めなかったのは、①性別適合手術を受けていなかったこと、②女性トイレを利用することについて同一の部署で働く職員に説明会を開いたところ、明確な異議は出なかったものの数名の女性職員が違和感を抱いているように見えた、③一つ上の階のフロアを日常的に利用している女性職員が存在した、といった事情を考慮したものでした。経済産業省がそのような決定を行った後、原告は、2フロア以上離れた女性トイレを利用し始めましたが、ほかの職員との間でトラブルが生じないまま4年10カ月が経過しましたが、この間、取扱いが見直されることもありませんでした。最高裁は、このような状況に対して、「本件における具体的な事情を踏まえることなく他の職員に対する配慮を過度に重視し、上告人の不利益を不当に軽視するものであって、関係者の公平並びに上告人を含む職員の能率の発揮及び増進の見地から判断しなかったものとして、著しく妥当性を欠いたもの」として、違法と判断しました。今回の事件から参考になる事項としては、①性別適合手術の有無という形式的な基準のみに依拠して区別することは許容されない場合があること、②抽象的な事情ではなく個別具体的な事情(自社の事情、女性職員の有無、自社の職員のLGBTに対する理解の程度など)をふまえて判断する必要があること、③長期にわたって見直すことなく状況を維持・固定化することがないように心がける必要があること、などがあげられるでしょう。なお、裁判長の補足意見において「トイレを含め、不特定又は多数の人々の使用が想定されている公共施設の使用の在り方について触れるものではない。この問題は、機会を改めて議論されるべき」と触れられている通り、オープンな利用が前提である施設には、判例の述べたような内容はあてはまりません。3最点となっていますが、じつは原告が求めた対応は多岐にわたっており、その内容はLGBTの人物が求める措置と重なる部分があるでしょう。こと、②女性用休憩室の利用を認めること、③健康診断において乳がん検診を受けられるようにすること、④出席簿の名札の色を女性用の色にすること、⑤システムなどの名前および性別を女性に変更すること、⑥メールアドレスの名前を変更すること、⑦身分証の名前および写真を変更すること、などです。すべてがあてはまるとはかぎりませんが、自社でも対応が必要になる部分があるとイメージすることはできるのではないでしょうか。働者に対してLGBTの理解を促進し、研修の実施、普及啓発、相談体制の整備などが努力義務として課されており、最高裁判例において示されたような事情もふまえつつ、具体的な対応が求められていくことになりそうです。高裁の事件では、トイレの利用だけが争原告が求めたのは、①女性の身なりで働くLGBT理解増進法では、事業主には、労これからのLGBT対応について47エルダー知っておきたい労働法AA&&Q
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