エルダー2023年9月号
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3―高齢就業者の増加にともない、労働災害も増えています。加齢とヒューマンエラーとの関係について教えてください。―大橋さんの著書『ヒューマンエラーの心行きましたが、助けを呼びに行ける人数が2人になると4分経過しても15%ぐらいの人が助けを呼びに行かず、5人になると40%の人が助けを呼びに行かないというデータ※3があります。これは自分と同じことができる人が周りに多くいることが認識されると「自分がやらなくてもいい」と思ってしまうという人間の特性なのです。関連する事例としては、東京都立高校入試の問題にミスが多発し、ダブルチェック、トリプルチェックと人を増やしてもミスが減らず、最終的には4人でチェックをすることになったそうです。これはチェックする人を単純に増やすだけでは安全につながるわけではないことを示しています。大橋年層で減少に転じ、高年齢層で再び高まるというのが、ある種の典型的な発生傾向です。若い人で多いのは経験が少なく、やり方もわからないからです。例えば、墜落防止用保護具である安全帯は、知識不足により装着方法が間違っていれば事故のリスクも高まります。一方、高齢者の場合は、認知機能など加齢による心身機能の低下もありますが、経験が豊富なことからくる慣れや慢心が事故のリスクを高めている側面があります。もちろん、高齢者は安全に対する経験も知識もありますが、歳を重ねると考え方の柔軟性が失われて労働災害は、若い人に多く、壮年・中いくという調査結果※4もあります。策は二つあります。一つは教育です。人間は歳を重ねると、思考の柔軟性がなくなっていくものであり、それを自覚して行動することを教えることが重要です。もう一つは、現場のあり方として、若手や高齢者に関係なく、安全に不安を感じたら作業を中止する権限を与えることです。あるプラント設備の製造工場では「SWA(StopWork という制度を設け、不安全行動・状態を見つけたら、立場や役職、年齢に関係なく、作業を停止させる権限をだれにも認めています。不安全な状況を指摘された側は「ありがとう」と返して、作業を停止します。もちろん、作業を停止して確認した結果、不安全な状況ではなくてもよいのです。こうしたルールをつくり、高齢者にかぎらず、慣れや慢心による事故を防ぐことが大切です。慣れや慢心による事故を防止するための対Authority)」不安全行動・状態を見つけたら立場や年齢に関係なく作業を中止する権限をエルダー※3  Bystander Intervention in Emergencies: Diffusion of Responsibility Darley, J.M.; Latané, B. (1968). Journal of Personality and Social Psychology. 8(4), pp.377‒383.※4 Salthouse, T.A. What and when of cognitive aging? Current Directions in Psychological Science, 13, pp.140-144.

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