エルダー2023年9月号
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つづく高度な専門知識と技術が要求される製造現場との折衝にシニア人材を活用経験からのアドバイスだけではなく最新情報にアップデートした提案■■ば、採用しないこともありました。相見積もりを取った結果、価格で折り合わなかったこともあります。また、深谷さんには購買担当者としてだけでなく回路設計者としての観点で、部品選定の要件を出していただきました。例えば、設計観点として安全率※1があります。品質の高い製品を設計するためには、製品にかかる負荷を考慮して適切な安全率を設定することが重要です。しかし、顧客環境でどのような負荷が発生するかを網羅的に予測することは私たちの知見だけではむずかしいところもありました。そんなとき深谷さんは「こういうところが危ないんじゃない?」と教えてくれるのです。具体的には、電気的なノイズや静電気対策などでは、深谷さんの意見や知見から危険を回避できたことが何回かありました。こうして深谷さんにはさまざまな面で量産化に貢献してもらいましたが、ほかのシニア人材にもスポット的にサポートをお願いすることはありました。例えば、外側の筐■体■はプラスチックの射出成る成形不良を解決するためには、金型や成形に関する知識が必要とされるため苦労しました。金型は金属の塊を削ってつくりますが、一度つくると簡単にはやり直すことはできず、修正する選択肢には制約が生まれます。また、金型の温度や冷却時間などの成形条件を変えることでも成形品は変化します。成形については、あるメーカーに所属されている現役のシニア人材に入ってもらうことで問題を解決しました。製造の現場では経験豊富なさまざまなベテランの方々に、多くのことを教えていただきました。形※2でつくるのですが、量産立上げ時に発生すはアドバイザーというよりは、ごく普通に当社のメンバーの一員として「手を動かして」くださいました。く好きで、現場も大好きなのだと思います。そして仕事の選り好みをしません。特に何か新しいことやチャレンジングなことを行う際には情熱を燃やすタイプです。それに加え、泥臭いというか根気のいる仕事、例えば思い通りに動作しない回路の原因を探ったり、不良品を見つけ出すといったことも率先してやってくれるのです。多分もう、「好きな仕事」といった感覚は卒業していて、より「チームのために」という発想で仕事をしているのだと思います。しても、何か部品を選定して調達するというときも、自分の過去の記憶から出すのではなくて、つねに最新のものから探すということです。「自分が現役のときはこれを使ってたよ」といった提案はほとんどないのです。むしろ私たちも知らないような製品や技術情報をキャッチして、つねにアップデートした提案ができるというのは本当にすばらしいと思います。こうして量産が軌道に乗った後も、深谷さん私の印象では、深谷さんはものづくりがすご特にすごいと思うのは、設計のアドバイスに49※1 安全率……製品が破壊される負荷と、使用環境で想定される最大負荷の比率。荷重や電圧、曝露量などのさまざまな負荷に対して用いられる※2 射出成形……プラスチックなどの材料を加熱して溶かし、射出口を通じて金型のなかに圧力で流し込み、望む形状の製品を作成する製造方法■量産開始時に製造した金型と実際の製品(写真提供:株式会社Photosynth)エルダースタートアップシニア人材奮闘闘記

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