エルダー2023年9月号
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■■映画『生きる』(1952年)心に残る〝あの作のの品高高齢齢〟者者このコーナーでは、映画やドラマ、小説や演劇、音楽などに登場する高齢者に焦点をあて、高齢者雇用にかかわる方々がリレー方式で、「心に残る〝あの作品〟の高齢者」を綴ります一般社団法人シニアセカンドキャリア推進協会代表理事髙■平■ゆかり彷■■徨います。そんな父親の行動が理解できず、息■■■■■■■■  ■■『生きる』は、巨匠・黒■澤■明■監督の代表作として、『七人の侍』と並び世界的にも高い評価を得た作品です。物語の主人公・渡■辺■勘■治■は、市役所に勤める市民課長。山積みの書類に囲まれて、ひたすらハンコを押すだけの無為な日々を過ごしています。「休まず、遅れず、働かず」という役人としての王道をまじめに歩んできた寡黙な初老の役人ですが、ある日末期がんで余命わずかであることを知らされます。思いがけない医師の宣告に戸惑い、混乱し、苦悩する主人公。職場も無断で欠勤し、居酒屋で知り合った中年の男に連れられて、夜の歓楽街を子夫婦にも怪■訝■な顔をされてしまいます。失意の主人公にとって明るい光となったのは、屈託なくケロケロっとよく笑う市役所の若い女性職員・小田切とよでした。とよの活気あふれる姿に魅せられた主人公は、「このままでは死に切れぬ…。生きて…死にたい…。そのために、何かしたい…」とつぶやきます。そして、職場に戻りたらい回しのあげく棚上げになっていた市民陳情の小公園を造るために奔走します。その仕事ぶりは、市役所の同僚を驚かせ、助役や市の議員をも動かします。5カ月後、完成した小公園のブランコに揺られながら、『ゴンドラの唄』を口ずさむ主人公。「いのち短し に 熱き血潮の冷えぬ間に ものを」 市民のために、未来に残る仕事を最後に成しえた主人公の眼に涙が溢れています。余談になりますが、この『ゴンドラの唄』は、大正時代の流行り歌としても有名です。1915(大正4)年に松■井■須■磨■子■が演じる第5回芸術座公演『その前夜』の劇中歌として作られました。もの悲しいメロディと歌詞が相まった『ゴンドラの唄』は、現代のアニメ作品の主題歌としても使われています。アレンジはかなり違いますが、この楽曲がもつ魅力は現代にも色あせ恋せよ乙女 紅き唇あせぬ間明日の月日はないていません。また、『生きる』はノーベル賞作家のカズオ・イシグロにより2022(令和4)年にリメイクされています。主人公が生きた時代の定年は55歳。平均寿命は60歳です。70年後の現代は、寿命も職業人生も伸び続けています。生きる時間軸が伸びた現代では、生きづらさを抱え悩む人が少なくありません。仕事や働き方の価値観も多様化しています。自分にとっての「生きる」を考えさせてくれる映画です。2023.956「生きる<Blu-ray>」Blu-ray発売中5,170円(税抜価格 4,700円)発売・販売元:東宝©1952 TOHO CO.,LTD第4回

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