エルダー2023年9月号
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金属の性質を見きわめることで自在な加工ができる客からの注文に応じて製作する一点物が中心。そのたしかな技術から、「三塚さんにぜひ頼みたい」というファンも多い。三塚さんは大分県別府市出身。実家は時計の修理業を営んでおり、工具で遊びながら育った。家業を継ぐつもりでいたが、クオーツ時計の登場で修理業は下火になってしまう。さまざまなアルバイトを経て、23歳のときにこの職業と出会い、「これこそ自分が探し求めていた仕事だ」と感じた。就職先はジュエリーのキャストに用いる原型をつくる会社。通常、職人は指輪なら指輪など、決まった種類のものしかつくらないが、事前に独学で技能の練習をしていた三塚さんは、社長に腕を見込まれて「手作り部門」に配属。そこでさまざまなコンテストへの出展作品などを製作する機会を得たことで、幅広い技能を身につけた。同社の製作室長を経て、1990(平成2)年に退社。自身の会社「有限会社コンプリート」を設立し、妻でジュエリーデザイナーの雅子さんとともに、顧客に喜ばれるジュエリー製作を行ってきた。2021(令和3)年には「卓越した技能者(現代の名工)」に選出された。素材の貴金属にはそれぞれの性質がある。例えば、プラチナは軟らかくて粘りがあるが、金はある程度まで曲げると折れてしまう。しかし、熱を加えて冷やす「なまし」を行うことで、軟らかくなり、曲げられるようになる。こうした金属ごとの性質を、経験を積んで把握することで、思うままに加工できるようになった。取材中、銀の角棒から指輪をつくる様子を見せてもらった。バーナーでなまし、金づちなどで叩いて形を整え、ヤスリで削るなどの工程を経て、わずか15分ほどで完62金属は熱を加えて冷やす(なまし)と軟らかく加工しやすくなり、叩くと硬くなる。なましと叩きをくり返しながら、求める形に近づけていく「それぞれの金属の性質がわかると、形を自由自在に変化させられる ようになります。自分の思い描く通りのものがつくれると楽しいですね」

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