エルダー2023年10月号
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最近の裁判例紹介暇日数の範囲内で、具体的な休暇の始期と終期を特定して右の時季指定をしたときは、客観的に同条三項但し書所定の事由が存在し、かつ、これを理由として使用者が時季変更権の行使をしないかぎり、右の指定によつて年次有給休暇が成立し、当該労働日における就労義務が消滅するものと解するのが相当である」(最高裁昭和48年3月2日判決、白石営林署事件)とされており、使用者の承認がなくとも、有給休暇の取得日を指定されたときには、そのまま労働義務が消滅するとされています。また、有給休暇の取得に理由が必要かという点について、「年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由である、とするのが法の趣旨であると解するのが相当である」(最高裁昭和事件)と判断されているため、利用目的によって取得を認めるか否かを決めることもできません。また、労働者が有給休暇取得を指定した場合は、「使用者に対し、できるだけ労働者が指定した時季に休暇を取れるよう状況に応じた配慮をすることを要請しているものとみることができる」として、使用者に配慮義務を課しており、シフトを割り当てられた日に有給休暇を取得する場合についても、「勤務割によつてあらかじめ定められていた勤務予定日につき休暇の時季指定がされた場合であつてもなお、使用者は、労働者が休暇を取ることができるよう状況に応じた配慮をすることが要請されるという点においては、異なるところはない」(最高裁昭和62年7月10日判決、弘前電報電話局事件)とされています。同事件では、「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するか否かの解釈についても、「使用者としての通常の配慮をすれば、勤務割を変更して代替勤務者を配置することが客観的に可能な状況にあると認められるにもかかわらず、使用者がそのための配慮をしないことにより代替勤務者が配置されないときは、必要配置人員を欠くものとして事業の正常な運営を妨げる場合に当たるということはできないと解するのが相当である」と判断しています。3有給休暇取得に関して、近年も最高裁判例の内容をふまえた判断がされています。東京地裁令和5年3月27日判決(JR東海(年休)事件)においては、シフト制の勤務体制のなかで、臨時対応用のシフトを予定された労働者が有給休暇の取得を求めたところ、使用者がこれを拒んだことから、その時季変更権行使の違法性が争われました。時季変更権における配慮が尽くされていないことが、賠償責任に結びつくか否かに関して判断しましたが、弘前電報電話局事件の最高裁判例を踏襲しつつ、「事業の正常な運営を妨げる場合」の判断を誤ったとしても、それだけでは配慮義務違反がただちに債務不履行にあたると認めることはできないと判断しました。時季変更権が行使されないことが、使用者の義務違反であるかについて判断された点は、本件における特徴といえます。裁判所は、「時季変更権の行使時期について労基法その他の関係法令に特段の規定が置かれていないことを考慮しても、使用者が事業の正常な運営を妨げる事由の存否を判断するのに必要な合理的な期間を超え、指定された時季の直前まで時季変更権の行使を行わないなどといった事情がある場合には、使用者による時季変更権の行使が労働者の円滑な年休取得を合理的な理由なく妨げるものとして権利濫用により無効になる余地があるものと解される」と判断しています。の正常な運営を妨げる事由の存否を判断するのに必要な合理的期間内に、かつ、遅くとも労働者が時季指定した日の相当期間前までにこれを行使することが必要となります。また、これが適切に行われたか否かについては、労働者の担当業務、能力、経験および職位など、他方で、請求した有給休暇取得の直前までそのため、使用者の立場からすると、事業43エルダー48年3月2日判決、国鉄郡山工場賃金カット知っておきたい労働法AA&&Q

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