就業の場所および従事すべき業務の変更の範囲権が発生しない旨を明記しておく方が望ましいでしょう。他方、第二種計画認定の手続きを終えていない場合には、5年を超えて締結する際には、無期転換申込機会を明示する必要があります。記載例としては、「本契約期間中に会社に対して期間の定めのない労働契約(無期労働契約)の締結の申込みをしたときは、本契約期間の末日の翌日から、無期労働契約での雇用に転換することができる」といったものがモデル労働条件通知書として公表されています。定年後再雇用者が無期転換権を行使した場合、定年による労働契約の終了が生じることはなくなるため、本人の就労意思が続くかぎり、または解雇事由が生じないかぎりは、労働契約が存続し続けることにもつながる可能性があります。必要であれば、第二種計画認定の手続きを終えておくか、無期転換後65歳以降の第二定年も用意しておくなど、自社の想定している雇用維持の方法をふまえて、就業規則も整備しておくことが重要でしょう。2追加された記載事項として②就業の場所および従事すべき業務の変更の範囲があります。従前から、就業の場所自体は記載事項とされていましたが、これが、当初就業する場所を意味しているのか、配置転換の可能性を制限する就業場所制限の合意としての位置づけであるのか曖昧になっており、訴訟においても争点になることがしばしば生じています。就業場所制限の合意として認められる場合には、使用者から配置転換や転勤などを命じることもできなくなることから人員配置の柔軟性を確保することはできなくなります。一方で、転勤することをふまえて基本給やそのほかの手当などを予定していた場合には、就業場所制限の合意があるのであればそのような処遇を行う理由もなくなるといえます。これまでは、就業場所に記載されているだけでは、特段の事情がないかぎりは、就業場所制限の合意ではなく、当初の就業場所を明示したにすぎず、就業規則に配置転換などの規定があるかぎりは、使用者が配置転換や転勤を命じることはできると考えられることが多かったといえます。しかしながら、今後は、就業場所の変更の範囲を明記することが求められるため、変更の範囲について記載がされていない場合には、使用者の配置転換などの権限はないと判断される可能性は高まるといえるでしょう。このことは、業務内容の変更の範囲にも同様のことがいえます。定年後再雇用を行うこととこれらの就業場所および業務内容の変更の範囲について記載を要することの関連性はどこにあるかというと、定年前と定年後の働き方による同一労働同一賃金の判断要素となるという点にあります。定年後再雇用であるにもかかわらず、就業場所や業務内容を変更する余地が大きいままで正社員のときと変更されていないようであれば、賃金を減額する理由が乏しいということになります。定年後の雇用条件については、正社員であった当時の労働者自身の労働条件と比較される場合もあり、特に注意が必要でしょう。他方で、正社員との相違を明確化しておくことができれば、そのことが同一労働同一賃金でないことを説明するための合理的な理由になります。して、最高裁は、名古屋自動車学校事件(最高裁令和5年7月20日判決)について、正社員と高齢者の基本給や賞与の性質の検討が不足しているとして名古屋高等裁判所へ差し戻しました。このことは、最高裁が、同一労働同一賃金の判断に関して、賃金の性質や支給の目的を重要な要素としていることを示しています。労働条件通知書における、就業場所および業務の内容の変更の範囲を明記することは、賃金の性質などを判断するにあたって重要な事情になるはずです。加えるならば、基本給の支給額に関する計算要素や手当の目的など給与体系に変更がある場合は、その説明も加えておくことで、賃金などの性質を明らかにし、合理的な説明であると労働者が理解できるように準備しておくことも視野に入れておくべきでしょう。先日、定年後再雇用における賃金減額に関45エルダー知っておきたい労働法AA&&Q
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