エルダー2023年10月号
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ゃの小説 『真し理り先せ生せ』(著/武む者し小こ路じ実さ篤あつ 1952年)心に残る〝あの作のの品高高齢齢〟者者このコーナーでは、映画やドラマ、小説や演劇、音楽などに登場する高齢者に焦点をあて、高齢者雇用にかかわる方々がリレー方式で、「心に残るあの作品の高齢者」を綴ります■■■■■■■■ ん んいうね■■株式会社シニアジョブ広報部部長安■彦■守■人■武者小路実篤の小説『真理先生』には、真理先生のほか、初老から高齢と思しき人物が、語り手の「僕」(山■谷■)、画家の馬■鹿■一■(石かき先生)、同じく画家の白■雲■子■、白雲子の弟で書家の泰■山■と5人登場します。真理先生は、じつは主人公ではなく、石や雑草ばかり描く才能が微妙な高齢の画家・馬鹿一が本作の主人公。デッサンなどの基本も無茶苦茶、人物的にも変人、風采もよくなく金もない。そんな馬鹿一は、山谷が真理先生に引き合わせたことがきっかけでほかの人にも出会い、石だけでなく人の美にも向き合い、自身の絵を高めます。馬鹿一だけでなく、作中ではほかの高齢男性陣、そして若い人物も何らかの気づきを得て成長しています。登場人物がみんな誠実な善人で真摯に成長する様子は、白■樺■派らしい人間を美化し過ぎる描写にも思えますが、個人的に真理先生が述べる「真理」は、永久不変の真実ではなく「誠実な姿勢が人にとってもっとも大切」というメッセージに思えます。ずっと貫くべき人の基本姿勢だからこそ、成長のイメージが少ない高齢者の成長が描かれるのでしょう。イメージは少ないものの、現代の高齢者の就職でも知識習得や成長は重要です。定年までに積み上げたスキルや資格も大事ですが、真摯に新しいことを学ぶ姿勢が評価される場面を、私たちシニアジョブの就職支援ではよく目にします。本作にはもう一つ、現代の高齢者の仕事への学びがあります。真理先生も語り手の山谷も仕事らしい仕事はしていませんし、実篤作品全般でお金儲けは重要視されませんが、真理先生の自身の知識や信念を人に教え導く姿、それはコンサルタントや企業の顧問にも通じるものではないでしょうか。主要人物を引き合わせる山谷も、さながら企業の人脈構築を担当する「コネクタ」のようです。真理先生や山谷も新たな学びを得ているように、これらの職種もまた、過去の実績や知識のみでなく、新たなインプットが不可欠です。馬鹿一の絵のモチーフは、石や雑草→人形→杉子→愛子と変化しますが、序盤で嫌がり終盤で自らモチーフとなった愛子が最高峰で、途中がステップなのではありません。真理先生が「自己も生き、他人も生き、全体も生きる、それが真理の道であります」と講じたように、馬鹿一とそのモチーフも互いやほかの登場人物とよい影響を与え合い、よい影響が循環した形といえるでしょう。51エルダー武者小路実篤『真理先生』(新潮文庫刊)第5回

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