エルダー2023年10月号
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後進には、よい製品を効率よくつくるためのアイデアを期待「1位を取るつもりでつくった作品を出品したら落選でした。そのとき初めてほかの優秀な作品を見て、それまで効率ばかり考えてつくっていた自分が井の中の蛙だったことに気づき、技術的な価値を理解することができたんです」心機一転して臨んだ翌年の大会で入選を果たし、4度目の大会では2位を獲得。出品の機会をもらったこと、そして一番になろうという強い意志が、技能向上の原動力になったとふり返る。土屋さんの工房はバブル崩壊後、厳しい状況に追い込まれたが、現社長の息子とともに、ものづくりのよさを訴えることで世間の評価を獲得。また、そのころ6年間使われたランドセルを、記念としてミニランドセルにリメイクするサービスを積極的に行ったことで、顧客に喜ばれるとともに、実際の使われ具合がわかることから、さらなる品質向上へとつながった。ることへの危機感から、後進の育成に注力。現在はランドセルだけで約120人の職人を抱えるまでに成長した。後進に期待するのは、優れた製品をより効率よくつくるためのアイデアだ。土屋さん自身、修業時代に革を効率よく切り抜くための型をつくったり、縫い合わせた生地を裏返して形をきれいに出すための治具を開発するなど、さまざまな工夫を重ねてきた。「普段の作業のなかに、工夫のためのヒントがいくらでもある」という。「若い人たちが、この会社に入ってよかったと思えるようになってほしい」と、後進の仕事ぶりを温かい眼差しで見守っている。https://tsuchiya-kaban.j株式会社土屋鞄製造所TEL:03(5647)5121(撮影・福田栄夫/取材・増田忠英)p63エルダー土屋鞄製造所のロゴマークは、革包丁で革を裁断する様子を表しているミシンで縫う位置はミリ単位で決められており、0.5㎜ずれるだけで印象が変わるという工房で働く職人のみなさんと。社内では「お父さん」と呼ばれ慕われている6年間の役目を終えたランドセルをリメイクしたミニランドセルも好評ランドセルの角は、革を花びらのように均一に寄せる「菊寄せ」で美しく仕上げる一つひとつのランドセルが、約50人の職人の手を経てつくられているミシンで縫われたランドセルの前側の部分を裏返し、治具を使ってきれいに形を出す。かなり力のいる作業だ vol.33221世紀に入ると、技術が失われ

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