エルダー2023年11月号
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映画『ハウルの動く城』(2004年)心に残る〝あの作のの品高高齢齢〟者者このコーナーでは、映画やドラマ、小説や演劇、音楽などに登場する高齢者に焦点をあて、高齢者雇用にかかわる方々がリレー方式で、「心に残るあの作品の高齢者」を綴ります立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授日本人材マネジメント協会理事長山﨑京子『ハウルの動く城』はスタジオジブリ作品として2004(平成16)年に公開されました。原作はダイアナ・ウィン・ジョーンズによる小説『魔法使いハウルと火の悪魔』ですが、映画ではよりファンタジー性が強調されているようです。舞台は1900年代初頭のヨーロッパ風の田舎町で、主人公である18歳の少女ソフィーは父が経営していた帽子屋を継ぎ、地味な服装で人づき合いもあまりよくない生活をしています。その店に現れた魔女の呪いでソフィーは90歳の姿に変えられてしまったので、生まれ故郷を離れ、容姿端麗な魔法使いのハウル青年が拠点にしている巨大な動く城に掃除婦として潜りこみます。この作品でのソフィーの「歳をとる」ことへの台詞に気づかされることがあります。老婆になった自身の姿を鏡で見たときに、ソフィーは絶望するのではなく「落ち着かなきゃ。大丈夫よ、おばあちゃん。前より元気そうだし」というのです。ソフィーは妹に「本当に帽子屋になりたいの?自分のことは自分で決めなきゃ駄目よ」と説教されるほど生気がなかったのですが、街を出るという意思を持ってから活力あふれる女性になっていくのです。また、その後も「歳をとっていいことは、悪知恵がつくことね。驚かなくなるし。なくすものが少なくてすむ」と肯定的に受けとめます。若い女性であることのプレッシャーから解放され、大胆なふるまいができるようになります。他方、ソフィーとは対照的に「若さへの固執」の象徴として描かれるのが、若い男性の心臓を追い求める魔女です。魔力を奪い取られた後に実年齢の老婆になってまでも、ハウルの心臓にしがみつき手放そうとはしません。こうして見ると、老いの「あるべき姿」を描いているだけのようですが、ソフィーの姿が老婆と少女を往復するところに重要なメッセージがあるように思えます。ハウルを守るために数多くの冒険をしているときにソフィーは老婆から中年女性、そして少女へと姿を何度となく変えているのですが、そのうちにハウルも鑑賞者も、ソフィーの外見はどちらでもよくなってくるのです。年齢に縛られ自分自身をステレオタイプ化するのではなく、いま何をしようとしているのかが大事なのではないか、と思わされます。ちなみに、ソフィーが少女に戻るのは、寝ているときと、ハウルに恋をしているときです。私たちも心のなかにソフィーを宿らせることで、だれもが実年齢から解放され自由に生きられるのではないか、そんな気になれる作品です。『ハウルの動く城』ブルーレイ、DVD発売中発売元 ウォルト・ディズニー・ジャパン©2004 Studio Ghibli・NDDMT 53エルダー第6回

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