洋服の仕立て職人から仕上げの技術を学ぶ質、不溶物、色素の順に層になっており、それを上層から順に壊していくことがシミ抜きの基本です。油の膜がついたままのところにいきなり漂白剤をつけても、シミは取れずに周りだけが白くなってしまいます」と田中さん。シミ抜きには既製のシミ抜き剤は使わず、独自に調合した薬剤を使っている。「既製品は、汎用的に使えるように7〜8割落とせればよいという考えの基につくられています。それでは満足できないので、シミをほぼすべて落とせるように、シミの状態に適した薬剤を自分で調合してシミ抜きをしています」生地の色が抜けてしまった場合には、染色補正を行い、元の色と変わらない状態に復元する。動物繊維と植物繊維それぞれに適した染料を用意し、複数の色を混ぜ合わせて生地と同じ色をつくり、筆で染色する。例えば、礼服でも生地の素材や染料によって黒の色合いが異なるため、適切な染料を選ぶには生地の見極めが大切になる。多様なシミをきれいに取り除いたり、元の生地と同じ色をすみやかにつくり出すことができるのは、独自の勉強と長年の経験によるものだそうだ。田中さんは、創業者だった祖父の代から数えると三代目にあたる。「学生のころまでは、店を継ぐ気はまったくありませんでした。しかし、親父の働く後ろ姿を見て、『この店を潰したらかわいそうだな』と思い、後を継ぐことにしました。やるからには人より上手になりたいという向上心から、クリーニングの仕組みやシミ抜きの技術などを一生懸命勉強しました」さらに、洋服の仕立ての先生にも教えを請うている。「洋服を仕立てる際は、まっす「孫のためにとっておきたい」と依頼を受けた年代物の振り袖を、シミ抜きをしてきれいな状態に。店には、顧客が大切にしている衣類が多く持ち込まれる62「お客さまに支持されて、『あそこじゃなければダメ』といわれるのが一番幸せ。そういわれるためには、やはり勉強が欠かせません」
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