エルダー2023年12月号
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対話型のキャリア開発プログラムを導入し無理をしてでもポジションを用意せざるを得ない。それは、適材適所を困難にする要因となり、配置の新陳代謝の機会を狭め、組織の活力を低下させるリスクを高める。もう一つは、職能資格制度を長く運用してきたため、職務ではなく能力の高さで報酬を決める運用が残っており、職務と報酬のバランスが取れていないシニアが多くなることである。職務の価値に比べて高い報酬を支払い続けると、会社は高コスト体質に陥る。このような問題意識を会社は以前から持っており、人事制度の改定などの手を打ってきたが、2019年に行った従業員意識調査で、シニアにおいて自律的なキャリア意識が低いという結果が現れた。「シニアの半分以上が、会社にキャリアを依存しており、『自分のキャリアを決めるのは会社だ』と思っているシニアが多かったのです。その一方で、従業員満足度はシニアが一番高かったのです。満足度が高いのは悪いことではありませんが、キャリア自律意識の低さと合わせて考えると、シニアが現状に甘んじている傾向が強いと思われるような調査結果でした」(茂木人事部部長代理)こうした実態を受け、2021年には人事制度の改定を、2022年には嘱託再雇用制度の改定を行った。人事制度改定では、「職能資格制度」を「職務等級制度」に変更。職務等級が上がらなければ、その職務で経験を積んでも、基本的に報酬は変わらず、職務等級は職務昇進がなければ上がらない。つまり、年功で昇格や昇給する余地のあった制度から、定年までずっと同じ処遇のこともありうる制度に変わった。このことは、「仕事やポジションは会社から与えられるもの」という意識から、「自分のキャリアは自分で考え形成していくもの」という意識への変革をうながす契機となった。この人事制度の改定と合わせて、キャリア施策についても、社員に強いメッセージを発信した。その一つは、自律的なキャリアデザインの意識を持つよう求めたこと。二つ目に自らの知見・スキル・知識をつねにアップデートし、そのことによりエンプロイアビリティを高めることをうながした。ここでいうエンプロイアビリティとは、他社に雇われる能力というより、どんな組織でも自分の力をフルに発揮できる能力をさしている。ただ、先に見たように、特にシニアではキャリア自律意識が低い傾向にあった。そのためメッセージを出すだけではなく、会社として社加か来く依よ子こ人事部課長代理は次のように説明を員のキャリア自律を支援するためのいくつかの施策を「キャリア自律開発支援パッケージ」と名づけてリリースした。●キャリアデザインセミナー象とした「キャリアデザインセミナー」は、 1回90分のオンライン形式で行う。キャリアデザインの考え方、リスキリング(学び直し)の方法、キャリアプランとして多様な選択肢があることへの気づき、定年後を見すえたマネープランなど、テーマを毎回設定して、講義と質疑応答を行う。自律開発支援パッケージ」の一部を担当するプレシニアとシニア、すなわち45歳以上を対キャリアデザインセミナーなど「キャリア16人事部の茂木敏男部長代理(右)と加来依子課長代理(左)り

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