り合わせて強度をもたせた『渋しつくります」と話すのは、東京で伊勢型紙をつくる数少ない職人の一人で、大田区伝統工芸士に認定されている宮﨑正明さん。注文を受けて型紙をつくるほか、昔の型紙の復刻も行っている。61ページの写真の骸骨たちが踊ったり演奏したりしているユニークな柄の型紙(「骸骨の宴」)は、宮﨑さんが江戸時代の柄を復刻したものだ。また、型紙づくりの技術を活かし、明治神宮「宝物殿」、浜は離り宮き「松の御茶屋」、寛永寺「葵の間」をはじめ、全国各地の文化財の天井絵や壁紙、襖ふ絵えなどの復元や修復にも数多くたずさわっている。伊勢型紙が人々を魅了するのは、細かい柄を彫刻する緻密さにあるが、伊勢型紙に求められる技ゅうすま紙か』に、彫刻刀で柄を切り抜いてまみぶ術はそれだけではないという。「型染めをする際は、型紙を移動させながら順に染めていくので、型紙の端と端の柄がぴったり合わないと、きれいに連続した柄になりません。そのため、1ミリの狂いもない正確さが求められます」さらに、細かい図柄を彫り進めるためには、根気も不可欠。制作に1カ月以上かかる型紙も珍しくない。ちょうど取材時に手がけていた唐紙の型紙もその一つ。柄の細かさに加え、8色染めのため、色ごとに8枚の型紙をつくらなければならない。しかも、8枚を重ね合わせたときにずれないように、細心の注意を払う必要がある。「ひたすら一人でコツコツと彫り続けるこの仕事は、人によってはなかなかむずかしいかもしれません。私の場合は、逆にそれがストレス発散になっています(笑)」彫ること以上にむずかしいのが、小刀を自分が彫りやすいように研ぐことだと宮﨑さんは話す。1ミリの狂いもない正確さが型染めの美しい柄を生み出す628色染めの唐紙の型紙を彫っているところ。細かく描かれている絵の、幅1ミリほどの線に沿って彫っていく。細い線を彫るときは、息を止めて集中する「型紙の良し悪しを決めるのは染めるときです。そのため、染め屋さんと事前に打合せをして、染めやすい型紙づくりを一番に心がけます」
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