(撮影・福田栄夫/取材・増田忠英)「刃の厚みはわずか1ミリ強。砥とればかりはとにかく、くり返し練習して体得するしかありません。私の場合、うまく研げるようになるまで7~8年かかりました」切れ味が悪ければ仕上がりに影響する。毎日作業をする前には必ず研ぎ、一日彫る場合は途中で砥石をあてないと、切れ味が落ちてしまうそうだ。大田区役所の職員だった宮﨑さんが、伊勢型紙と出会ったのは1986(昭和61)年のこと。「これが人間の手でつくれるものなのか││」。偶然展示会で目にした型紙の美しさに魅了され、その翌日、制作者である鈴鹿市出身の小こ林ば一は氏に弟子入り。昼は区役所に勤務し、夜になると上野にあった小林氏の工房に通って技術を学んだ。やしじめ石いにあてる刃の角度が微妙で、こ「最初は紙に一円玉をなぞって丸をたくさん描き、その丸をひたすら彫る練習をさせられました。初心者には、丸く彫るのが一番むずかしいんです」そして、簡単な柄を彫っては師匠に確認してもらうことをくり返しながら、腕を磨いていった。 「師匠の仕事を手伝えるようになったのは、弟子入りして10年ほど経ってから。20年ほどして、ようやく『師匠に追いつけたかな』と思えるようになりました」現在は、師匠が運営してきた「伊勢型紙技術保存研究会」を引き継ぎ、東京と横浜の4カ所で教室を開いている。また東京都が行っている「職人塾」でも講師を務める。「師匠は生前、『宮﨑君、後を頼むよ』とずっといわれていました。後継者を育てることは、師匠への恩返しだと思っています」伊勢型紙技術保存研究会TEL:080(5431)3515後継者の育成は亡き師匠への恩返しし63型紙で染めた和紙を使った灯り。ワークショップの題材にしている植物学者シーボルトが100年以上前に日本からドイツに持ち帰った「おたくさ」(紫陽花)柄の型紙を復刻。背景の模様も細やかだ上は彫った2枚の型紙を重ねて試し刷りしたもの。指先の、型紙の異なる線と線が合っている。下はずれている例使用する彫刻刀の数々。小刀のほか、丸い穴を開けるための錐きりが、大きさの違いで複数ある毎年開催する「伊勢型紙展」も師匠から引き継いだものの一つ。教室の生徒や自身の作品を展示し、伊勢型紙の魅力を伝える62ページの作業を拡大したところ。描かれている線の両側をなぞるように小刀を引き、線の部分を抜き取っていくエルダー vol.334
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