エルダー2024年1月号
12/68

離職に至るケースも数多く報告されています※9。そこで、会社員は遅くても50代に差しかかった段階で、定年後の仕事について考え始めることが必要です。最近、大企業では中高年社員対象の「キャリア研修」を実施する事例が増えてきました。一部の企業では、ボランティア活動やインターンなどの「越境体験型研修」を行うケースも出てきました。このような機会を積極的に使うことで、自らのキャリアの拡がりを考え、体感することが重要です。たとえ勤務先では研修がなくても、大学や自治体が類似のプログラムを提供している実例もありますので、一度ホームページなどでチェックすることをおすすめします。また、退職後は、雇用される働き方だけではなく、フリーランスとしての働き方もぜひ選択肢として考えてみてはいかがでしょうか。経済的な立場の脆弱性も指摘されるフリーランスですが、ワーク・エンゲイジメントは会社員よりも高いとの調査結果※10もあり、「無理のない主体的な仕事スタイル」ともきわめて相性がよいともいわれています。②企業経営の課題高齢社員の活性化に向けては、年齢による一律的な処遇のダウンや考課・査定の対象外とする従来型の高齢社員特有の人事制度や雇用慣行を見直す時期にきているのかもしれません。70歳までの就業機会確保を求める改正法は努力義務であり、対応策を検討中の企業が多いものの、改正法施行を機に50代以降の制度や慣行の見直しを始めた企業は数多く見られます。特に、高齢社員の経験や能力を活かす配置ポストの検討は、人事部門だけではなく、現業部門を巻き込んだ現場目線での検討が求められています。一例として人手不足が深刻な介護施設でも、軽度で簡易な業務を抜き出して、高齢職員に担当してもらう事例が報告されています※11。また、ワーク・ライフ・バランスに配意した支援制度(短日・短時間勤務、副業など)を設けたものの、杓子定規な認定基準や要員管理がもとで、所属長の壁や人事担当者の壁に制度利用がはばまれている企業が多いとの指摘も聞かれます。この面でも人事部門と現業部門との日常的なコミュニケーションが強く望まれます。③社会の課題「履歴書を数多く送付しても反応がない」、「でも実際に会ってもらうと一度で採用が決まった」というのは、高齢者の就職活動でよく聞く話です。「高齢者だから」との年齢への無意識の思い込みや偏見を一人ひとりが取り除いていくことが、いままさに求められています。りではなく、受入れ側の企業、NPO法人、社会福祉法人の課題も多く指摘されています。例えば、求人ニーズや求める役割が不明確などお手並み拝見的であったり、逆に過度な期待を寄せているなど、高齢社員の採用場面での改善余地も大きそうです※9。専門窓口」を設置する事例が出始めています。相談に乗る側も、高齢者特有の体力面でのハンディキャップや、高齢者の能力、心理状態に関する正しい知見や造詣を深めていく努力が求められています。トは、ライフコースを4段階に分け、責任と所得の時代の「セカンドエイジ」から、個人的な実現と達成の時代の「サードエイジ」への円滑な移行を唱え、サードエイジを人生最良の時代としました※12・13。個人・企業・社会が互いにカバーし合いながら、最良のサードエイジを実現したいと思います。中高年の再就職での不調要因は本人要因ばか人材マッチングを支援する機関にも「高齢者さいごにイギリスの歴史人口学者ピーター・ラスレッ2024.110※ 9  中馬宏之監修『中高年再就職事例研究 成功・失敗100事例の要因分析から学ぶ』(2003年・東洋経済新報社)※10 石山恒貴『定年前と定年後の働き方―サードエイジを生きる思考』(2023年・光文社新書)※11 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構『エルダー』2023年11月号「特集:令和5年度 高年齢者活躍企業コンテスト」入賞企業事例※12 木下康仁『シニア学びの群像 定年後ライフスタイルの創出』(2018年・弘文堂)※13 Laslett,Peter 1989/1991 A Fresh of Life:The emergence of theThird Age, Harvard University Press

元のページ  ../index.html#12

このブックを見る