エルダー2024年1月号
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しなければならない旨が定められています。ここでいう第三者の範囲については広く認められており、労働者であっても、賠償請求が可能な第三者には該当すると考えられています。今回の相談では、未払残業代を生じさせることが任務懈怠といえるのか、どのような場合に取締役の悪意または重大な過失と評価されるのかという点が問題となります。理監督者に該当するものとして、残業代2管の支払いを受けてこなかった労働者が、会社が解散してしまったこともあり、代表取締役個人に対して未払残業代相当額を請求した事件があります(名古屋高裁金沢支部令和5年2月22日判決)。当該事案においては、管理監督者に該当するという前提で残業代を支払っていなかったことが、任務懈怠といえるのかという点がまず問題となります。裁判例では、管理監督者に該当するか否かについては、①経営者との一体性、②労働時間の裁量、③賃金等の待遇などから判断するものとされました。そして、①については営業会議への参加および同会議において提案していたことをもって一定程度の影響力を有しているとされたものの、雇用の決定にまでは関与してなかったとされ、②労働時間の裁量についても、就任前後のいずれもシフトに基づき就労し、また、就任後の方が労働時間は増加しており裁量を与えられていたとはいい難く、労働時間を自己申告にしたとしても裁量があったとは認められず、③従前受けていた残業代の支給を受けられなくなってもふさわしい待遇といえるかという観点からしても3000円程度しか差が出ていない待遇差はふさわしい待遇とはいえないとされ、管理監督者性が否定されました。管理監督者性については、経営者との一体性という観点から評価されるため、その要件は厳しく、裁判例でも肯定されることは多くありません。このような場合に、代表取締役個人が責任を負担することになるのでしょうか。管理監督者ではない労働者に対して残業代を支給していない状態は、労働基準法第37条に違反するものであり、取締役としての任務懈怠に該当するという点は反論の余地はないでしょう。残された問題は、代表取締役に故意または重過失があったか否かという点です。この事件の代表取締役は、社会保険労務士に相談をしたところ、管理監督者にすれば残業代を支払う必要はないが給料も上げなければならないという助言を受け、その要件の詳細の説明を受けることはなく、管理監督者にふさわしいか否かの相談をせずに、残業代の支払義務を免れるために管理監督者の制度を利用していました。このような事情から、管理監督者として扱ったことに重大な過失があると評価されています。基準へのあてはめを誤ったことがただちに重過失とされるものではないとしつつも、判断基準にあてはめることもなく、残業代を支払わない方法として管理監督者の制度を利用したという点を重視して、重過失を肯定しました。管理監督者という制度が、残業代を支払わないでよいものとして悪用され、「名ばかり管理職」などと呼ばれる現象が生じていることに警鐘を鳴らす判決であるといえるでしょう。ちなみに、この裁判例では、単に労働時間の計算ミスなどにより、取締役が把握することができない状況で未払残業代が発生したとしても、それがただちに取締役の故意または重過失による損害とはならないことも判断しており、制度の悪用ともいえる範囲で責任を肯定していますので、その影響は限定的ともいえます。何か法令違反があればただちに取締役個人が責任を負担するわけではありません。しかしながら、法令違反の状態を知りながら長期間放置するような事態になれば、重過なお、裁判所は、管理監督者該当性の判断未払残業代と任務懈怠に関する裁判例45エルダー知っておきたい労働法AA&&Q

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