エルダー2024年2月号
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AIによるタスクの変化は雇用面にプラスの影響を与える山本 たしかにあの論文は研究者も驚きましたが、論文のおかげでAIの仕事への影響をしっかり研究しなければいけないという機運が生まれました。当初から「仕事を失う人が約半数というのは多すぎる」という見立てもあり、その後、OECD(経済協力開発機構)の研究者が同じやり方で研究した結果、異なる結果が出ています。オズボーンたちは職業に注目し、同じ職業であればタスク、つまり業務内容も同じであると仮定していましたが、同じ職業でもタスクは異なります。それを加味して計算し直すと、大体10%前後の職業が置き換わることが示され、現在では半数という数値は高すぎるという見方が強くなっています。私はAIが労働市場に与える影響について、10年間研究を進めてきましたが、市場に影響を与えるほど、AIは普及していないというのが実態です。AIの導入状況について、日本の労働者を対象に調査したところ、AIの導入率は6%程度で決して多くありません。しかも「職場に導入されている」と回答した人の雇用にもあまり影響はなく、10年前に世間で注目されたほどAIの影響は大きくないといえます。ただ、私が行った調査は2021(令和3)年までのデータです。2023年には、新たな技術として生成AIが注目されるようになりました。現時点では精度がそれほど高くはないこともあり、その活用方法については、まだ模索の段階にあります。使い方次第では、仕事への影響も少なからずあるのではないでしょうか。山本 があります。例えば、定型的な業務がほとんどを占める職業はAIの影響を受けやすいといえますが、そういう職業は決して多くはありません。定型的な業務と、非定型的な業務が混在する職業がほとんどです。AIが得意とする領域は人からAIに置き換わるかもしれませんが、AIが苦手な領域は人がになう必要があるので、AIが導入されれば、働く人にとっては、AIが苦手とする領域の業務の比重が増えることになります。これを「タスクトランスフォーメーション」といいます。「タスクの高度化や変革」という意味ですが、AIに置き換え可能な業務だけをやっていた人は、そのままだと仕事を奪われてしまいますが、その業務をAIにまかせ、人にしかできない仕事に変えていくことが重要になります。おそらく多くの現場で、タスクトランスフォーメーションが起こると思います。山本 うといったマイナスの影響ではなく、どんな同じ職業であってもいろいろなタスクこのプロジェクトは、AIが雇用を奪―英オックスフォード大学のマイケル・オズボーン氏らが2014(平成26)年に発表した論文「雇用の未来」で、仕事の47%がAIに代替されると分析し、大きな衝撃を与えました。あれから10年が経過しましたが、仕事に及ぼすAIの影響はどう変化していますか。―AIは職業というより、タスクに影響を与えるという認識でよろしいでしょうか。―山本先生は、AIやロボティクスなどの新技術がもたらす労働市場への影響を調査する研究プロジェクト※の代表も務められました。研究で得られた知見を教えてください。※ 国立研究開発法人科学技術振興機構 RISTEX-HITE 研究プロジェクト「人と新しい技術の協働タスクモデル:労働市場へのインパクト評価」2024.22慶應義塾大学 商学部教授山本 勲さん 

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