1社有車を会社の敷地内から少し離れた月極駐車場で管理している状況で盗難にあった場合、当該盗難車で生じた事故は、盗難した者が責任を負うべきであるというのが原則ですが、盗難した者は自動車の所有者でもないため、被害者にとってはその特定が容易ではない場合があります。そのような場合であっても、自動車の所有者や管理者に対して責任追及できるように定めた法律があります。「自動車損害賠償保障法」(以下、「自賠法」)第三条は、「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる」と定めており、「運行供用者責任」と呼ばれています。ここにいう、運行の用に供する者(以下、「運行供用者」)に該当するか否かについては、判例上、①自動車の運行を支配(コントロール)していること(以下、「運行支配」)と②自動車の運行により何らかの利益を得ていること(以下、「運行利益」)を考慮して判断されています。これらの運行支配や運行利益について、盗難車であれば否定されるのかというと、必ずしもそうではないと考えられています。また、管理状況に不手際があった場合にはそのことを理由に不法行為責任を負担する可能性もあると考えられています。2盗て、会社の責任を判断した二つの最高裁判例があります。す。事案の概要としては、タクシー会社が所有する自動車が窃取され、2時間後に事故を起こしました。駐車されていた場所は周囲を2mの高さのブロック塀で囲われた駐車場内でしたが、エンジンキーなどの管理が十分でなかったことから窃取されたという状況でした。最高裁は、自賠法第三条が定める運行供用者責任に関しては、「本件事故の原因となつた本件自動車の運行は、訴外B(筆者注:窃取した運転手)が支配していたものであり、被上告人(筆者注:会社)はなんらその運行を指示制御すべき立場になく、また、その運行利益も被上告人に帰属していたといえないことが明らかである」としてその責任を否定しました。また、この判例は、「客観的に第三者の自由な立入りを禁止する構造、管理状況」があったことを理由に会社の不法行為責任も否定しました。自由な出入りを許す構造となっている場合(例えば、周囲を塀で囲まれていないような難された社有車による交通事故につい一つめは、最高裁昭和48年12月20日判決でしかしながら、社有車の駐車場が第三者の盗難された社有車で事故を起こされたとき会社は責任を問われるのですか客観的に第三者の自由な立入りを禁止する構造または管理状況にあるか、内規などにより自動車の管理を適切に定めて運用も確保されている状況にあれば、盗難された社有車による事故の責任を会社が負担する可能性は低いでしょう。社有車を少し離れた月極駐車場で管理していますが、ある日、1台盗難にあいました。前日に使った社員が施錠をせず、鍵を車内に置いたまま車から離れ、そのまま帰宅したことが原因のようです。そして、盗難された車で事故を起こされたのですが、当社は被害者に対する賠償責任を負担する責任はあるのでしょうか。二つの最高裁判例Q2盗難された側の会社が事故の責任を負うことがあり得るのか2024.242A
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