エルダー2024年2月号
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場合)には、会社は、社有車が盗難された後に引き起こされた事故に対して責任を負う可能性が残される判断となっていました。この点について判断したのが、二つめの最高裁令和2年1月21日判決です。事案の概要は、寮から社有車による通勤を許しており、当該社有車は、公道から出入りすることが可能な状態であった場所に、エンジンキーを運転席上部の日よけに挟んだ状態で駐車していたところ窃取され、その後に事故を生じさせたというものです。先ほどの事件とは異なり、客観的に第三者の自由な立入りを禁止する構造、管理状況ではない場所に通勤に利用されていた社有車が駐車されていました。ただし、会社には、第三者の自由な立入りが予定されていない場所にエンジンキーを保管する場所を設けたうえで、従業員が自動車を駐車場に駐車する際は、ドアを施錠し、エンジンキーを当該保管場所に保管する旨の内規が定められていました。最高裁は、駐車場所について「公道から出入りすることが可能な状態であったものの、近隣において自動車窃盗が発生していたなどの事情も認められない」としたうえで、「内規を定めることにより、窃取されることを防止するための措置を講じていたといえる」と判断して、会社の過失はないと判断し、賠償責任を否定しました。なお、最高裁昭和48年「客観的に第三者の自由な立入りを禁止する構造、管理状況」にない場合に、ただちに不法行為責任を肯定すべきとする趣旨のものではないと説明されました。ただし、この判例では、労働者が「以前にも、ドアを施錠せず、エンジンキーを運転席上部の日よけに挟んだ状態で本件自動車を本件駐車場に駐車したことが何度かあった」点について、会社がそのことを把握していたとの事情も認められないという補足をしていることからすると、内規が形骸化していることを認識している場合には結論が異なる可能性があります。これらの判例によれば、会社の責任を否定する要素としては、「客観的に第三者の自由な立入りを禁止する構造、管理状況」を整える方法以外に、内規を整え、これを遵守させることで施錠を管理する方法によることも可能であるといえます。3例えば、月極駐車場が、駐車場の契約者のみに貸与されるカードキーや暗証番号などにより、契約者しか入れないような構造になっていれば、「客観的に第三者の自由な立入りを禁止する構造、管理状況」であるといえるので、会社が事故に対する責任を負担することはないでしょう。しかしながら、一般的な月極駐車場であれば、自社の社員のみならず、他の駐車場契約者も出入りが可能であることが通常と思われます。そのような場合には、鍵の保管場所や保管のルールを定めた内規を整えておくことにより、会社が責任を免れる根拠を用意することができます。定めた内規に基づく運用が形骸化していないかぎりは、会社が、盗難車による事故の責任を問われることはないでしょう。社員の責任4会会社の規程に違反して社有車という財産を毀損した社員に対して処分ができなくなるわけではありません。内規の違反が懲戒事由とされている場合には、当該違反を根拠として、社員に対する懲戒処分を行うことは可能でしょう。の修理費や買い替え費用などの責任については、たしかに鍵の管理を怠った社員をきっかけとしているとはいえますが、その結果、社有車が盗難されて事故を生じさせることは通常のできごとではなく、社員がこれを予見することはできないと考えられますので、当該社員にその責任を負担させることはできないでしょう。これらの損害は、盗難した者を特定して追究する必要があるでしょう。社に事故の責任が問われないとしても、なお、盗難後の事故により破損した自動車判例から留意すべき事項12月20日判決との関係については、駐車場が43エルダー知っておきたい労働法AA&&Q

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