食文化史研究家●永山久夫2024.248363FOOD牛乳は、完全な栄養食品ともいわれるように、良質のタンパク質をはじめ、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルなどがまんべんなく含まれています。ビタミンでは、AのほかにB1、B2、E、K、葉酸を含み、ミネラルではカルシウムにカリウム、鉄、マグネシウム、亜鉛などが豊富です。このため、成長期の子どもや病人、高齢者には欠かせない栄養食品で、一般の人たちの栄養補給にも理想的な食品として、すっかり定着しています。長寿民族の日本人に不足しがちなカルシウムの供給源としても欠かせません。牛乳のカルシウムは、タンパク質と結合された形になっており、吸収率が高いという特徴があるからです。代表的な乳製品であるバターやチーズというと、ヨーロッパやアメリカというイメージが強いですが、じつは、日本にも「牛乳文化」が栄えた時代がありました。才能豊かな女性たちが頼もしい活躍をした平安時代になります。牛乳の加工食品は、奈良時代にもありましたが、本格的につくられるようになったのは平安時代。『源氏物語』で有名な紫■■■■式■■部■や『枕草子』の清■■少■■■納■言■■、世界三大美人の一人といわれる小■野■■小■町■■などが活躍した王朝文化の時代です。平安文化の主役である貴族たちの食膳には、牛乳を時間をかけて煮詰めた「蘇■」がひんぱんにのっていたのです。紫式部たちも食べていたのではないでしょうか。当時の記録で「蘇」のつくり方をみると、次のようになります。「乳大一斗、煎得蘇大一升」。つまり、一斗の牛乳を煮詰めると、一升の蘇ができるという意味です。『源氏物語絵巻』の女性たちの表情は、みんなふっくらとしていて、円満な顔立ちをしています。髪も黒く、つやつやとしていて長い。健康そのものであることを示しています。顔の豊かさは男性も同じで、栄養状態のよさを示しており、その背景にあるのは平安貴族たちが育てた「牛乳文化」といってよいでしょう。牛乳にはタンパク質がたっぷり平安女性たちは豊満美人平安文化を支えた牛乳日本史にみる長寿食
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