裁判例からわかる留意事項合程度飲んだのち、自家用車を運転して、ほかの自動車と衝突する事故を生じさせ、事故時点の呼気検査でアルコールが検出されました。その後、略式命令で罰金35万円を命じられています。公立学校の教師に対しては、酒気帯び運転や酒酔い運転により検挙される事案が過去に相次いでいたことから、懲戒処分について厳格に運用していくといった方針が通知されており、飲酒運転につき免職または5カ月以上の停職とする旨の基準が定められるに至っていました。このような状況において、当該公務員は、酒気帯び運転をしたうえで事故を起こしたことから、通知されていた通りに懲戒免職されたうえ、退職金の全額を不支給とされたものです。高裁では、「本件規定(注:退職金の減額の根拠規定)は、一般の退職手当等には勤続報償としての性格のみならず、賃金の後払いや退職後の生活保障としての性格もあることから、退職手当支給制限処分をするに当たり、長年勤続する職員の権利としての面にも慎重な配慮をすることを求めたものと解される」として、労働契約における退職金と同趣旨の考慮をして、「約30年間誠実に勤務してきたこと、本件事故による被害が物的なものにとどまり既に回復されたこと、反省の情が示されていること等を考慮すると、本件全部支給制限処分は、本件規定の趣旨を超えて被上告人に著しい不利益を与えるものであり、本件全部支給制限処分のうち、被上告人の一般の退職手当等の3割に相当する額を支給しないこととした部分は、県教委の裁量権の範囲を逸脱した違法なもの」として、7割の減額は肯定しつつも、3割の支給を命じるという結論になっていました。他方、最高裁は、この結論を認めずに、全額不支給を有効と判断しました。ただし、退職金減額や不支給の根拠規定について、「退職者の功績の度合いや非違行為の内容及び程度等に関する諸般の事情を総合的に勘案し、給与の後払的な性格や生活保障的な性格を踏まえても、当該退職者の勤続の功を抹消し又は減殺するに足りる事情があったと評価することができる場合に、退職手当支給制限処分をすることができる旨を規定したもの」としている点は、労働契約における退職金の判断や高裁の判断と大きな相違はありません。しかしながら、本件が公務員に対する処分として行われているという特徴をふまえて、「退職手当支給制限処分が退職手当管理機関の裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、当該処分に係る判断が社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に違法であると判断すべき」として、退職金の不支給が認められる余地を広げる判断をしています。そして、公務員であるという事情については、「本件非違行為は、公立学校に係る公務に対する信頼やその遂行に重大な影響や支障を及ぼすものであったといえる。さらに、県教委が、本件非違行為の前年、教職員による飲酒運転が相次いでいたことを受けて、複数回にわたり服務規律の確保を求める旨の通知等を発出するなどし、飲酒運転に対する懲戒処分につきより厳格に対応するなどといった注意喚起をしていたとの事情は、非違行為の抑止を図るなどの観点からも軽視し難い」と判断されており、公務員による飲酒運転の悪影響の重大性が加味されています。3公断ではあるものの、退職金の性質やそれを減額などする場合の考慮については、同様の配慮がなされており、労働契約における退職金の不支給にも通ずる部分がある最高裁判例となっています。の性質以外に公務員であるという事情による影響を加味するか否かという点が大きかったように思われます。最高裁が重視したのは、公務員であるからその処分の判断基準に裁量の余地が広く認められうることと、「公務に対する信頼」という観点から飲酒運転という重大事故につながりかねない非違行為を重く務員に対する退職金の不支給に対する判高裁と最高裁で結論を分けた点は、退職金49エルダー知っておきたい労働法AA&&Q
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