エルダー2024年4月号
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ては、労働契約法で労働条件の変更として許容されている合意や就業規則の変更による場合でも、かなり慎重な判断がなされています。それでは、労働契約法に根拠がない、使用者による一方的な減額は可能なのでしょうか。2ご紹介する裁判例は、業務成果などの不良を理由として賃金の減額を一方的に行ったところ、その有効性が争いになった事件です(システムディほか事件。東京地裁平成30年7月使用者からは、「就業規則である賃金規程中には、基準給は本人の経験、年齢、技能、職務遂行能力等を考慮して各人別に決定する(10条1号)、裁量労働手当は裁量労働時間制で勤務する者に対し従事する職務の種類及び担当する業務の質及び量の負荷等を勘案して基準給の25%を基準として各人別に月額で決定支給する(12条)、技能手当は従業員の技能に対応して決定、支給する(13条)との定めがある」ことを理由として、期待する十分な業務成果を上げることができず技能が著しく不足していたことから、賃金を減額することを決定したと主張されています。一見すると、能力に応じて賃金を決定することができることから、減額の根拠もあると解釈することも可能であるように思われます。しかしながら、裁判所は、「特に賃金は労働契約の中で最も重要な労働条件であるから、使用者が労働者に対してその業務成果の不良等を理由として労働者の承諾なく賃金を減額する場合、その法的根拠が就業規則にあるというためには、就業規則においてあらかじめ減額の事由、その方法及び程度等につき具体的かつ明確な基準が定められていることが必要と解するのが相当である」という基準を示しました。そして、使用者が定める規定について、「各賃金が減額される要件(従前支給されていた手当が支給されなくなる場合を含む)や、減じられる金額の算定基準、減額の判断をする時期及び方法等、減額に係る具体的な基準等はすべて不明であって、被告会社の賃金規程において、賃金の減額につき具体的かつ明確な基準が定められているものとはいえない」うえ、「昇給に係る規定はあるが、降給については何らの規定もないことが認められ、被告会社の賃金規程は、そもそも降給、すなわち労働者の賃金をその承諾なく減額することを予定していない」とも指摘され、このことは「原告の配置や業務が変更されたことによっても左右されない」として、賃金の減額が一切認められませんでした。3賃金については、能力に応じて支給される職能給と職務に応じて支給する職務給という考え方があり、後者の場合であれば、配置や業務が変更された場合には賃金が変更されるという考え方と親和性があります。能給であるのか職務給であるのか、それともこれらがミックスされたものであるのか、一部の手当については職務給的要素が強いのかなど、さまざまなバリエーションが存在しており、その決定方法については、基本的に自社の就業規則および賃金規程の内容によって定まることになります。裁判例が降給(労働者の承諾なく賃金を減額すること)を予定していないと指摘している点もその表れであり、降給の規定がないことから、職能給的性質が強いと評価されるということにつながります。労働同一賃金の差異に、正社員と定年後再雇用者においてその性質に差異があるのかといった点にも影響しているところであり(名古屋自動車学校事件。最高裁令和5年7月20日判決においても、基本給の性質や目的を十分にふまえて行うことが求められています)、自社の賃金の性質が説明可能となるように、就業規則および賃金規程の整備を進めることが必要といえるでしょう。しかしながら、賃金の性質については、職賃金の性質決定については、近年では同一一方的な賃金減額方法に関する裁判例賃金減額における留意事項10日判決)。49エルダー知っておきたい労働法AA&&Q

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