で交渉するより有利な回答を引き出すため組合同士で連携する、経営者側は他社の交渉動向を参考にしながら回答するという双方の事情に基づいています。特に、大手企業の回答が出揃う日を集中回答日と呼んでいます(2024〈令和6〉年は3月13日)が、この回答内容をふまえ、大手企業は妥結に向けて動き、中小企業は交渉を本格化させます。労組がない企業でも、特に賃上げについては大手企業の回答を参考にして検討するケースが多く、春闘のおよぼす影響は大きいといえます。毎年の賃上げ率や額が産業別・企業規模別にある程度一定水準なのは、この春闘の進め方が大きく影響しているともいえます。春闘のあり方は春闘の前提は、労働者側と経営者側の立場や意見が異なる点にあります。労働者側(連合)は春闘の正式名称を「春季生活闘争」としていますが、経営者側(経団連)は「春季労使交渉」と呼んでいる違いにも表れていると思います。労働者側の呼び方は、労働条件を力で勝ちとるニュアンスが比較的強く出ていますが、春闘の始まりはまさにこのような状況でした。春闘は、1955(昭和30)年に私鉄総連(日本私鉄労働組合総連合会)や合化労連(合成化学産業労働組合連合)・電機労連(全日本電機・電子・情報関連産業労働組合連合会)などの8つの産業別組合(8単産)※3が、解雇反対や低賃金打破などを目ざし共闘したことが始まりといわれています。朝鮮戦争休戦による不況で人員整理が実施されたことに対し、企業別の組合だけでは解雇に反対しても成功することが少なく限界があるため、共闘して企業や社会に対する影響力を大きくする必要があったことが背景にあります。この後、日本経済は高度経済成長・オイルショック・バブル経済と崩壊・リーマンショックと好況・不況をくり返してきましたが、いずれの時期も春闘の主要なテーマは賃上げで、労組側の要求の大きさに対して経営側の回答は小さく、お互いが同意・妥協できるラインで妥結するというのが基本パターンでした。春闘は労働三権のうち、労働者が使用者と交渉する権利である団体交渉権の行使にあたるため企業としては交渉に応じなければならないのですが、主張をぶつけ合うなかで紛糾し、会社側からの交渉打ち切りや、それに対抗するために労働者が要求実現のために団体で行動する権利である団体行動権を行使し、ストライキにまで発展するといったケースも見られました。ンスが強くなっているように変化しています。2008(平成20)年のリーマンショック後の景気低迷を背景に、多くの企業ではベースアップ未実施、定期昇給も低水準が続き、労使ともにそれを打破する大きな動きはありませんでした。しかし、2014年に政府が景気浮揚・成長戦略の一環としてベースアップを中心とした賃上げを企業に要請していきます。政府が春闘に介入することを官製春闘と呼んだりしますが、毎年春闘前になると賃上げを政府から企業に要請し、一定の大手企業が応じていくことが恒例化していきます。特に、2023年は、近年例を見ない物価上昇や、人手不足による人材獲得競争、日本企業の国際競争力の低下などの課題感とこれらに対応するために賃上げの重要性が労使で共有され、労組の要求通りに受け入れる満額回答やそれを上回る回答、これまで賃上げに慎重だった企業も一気に賃金を引き上げるなど、これまでに見られなかった展開を見せました。2024年もこの流れは継続しており、経団連・連合の会長同士の会談でも例年以上の賃上げが必要との見解で一致し、労使協調の傾向が強まっています。上げます。しかし、近年では闘争よりも話合いのニュア次回は、「ウェルビーイング」について取り時代とともに変化する※3 8単産…… 合成化学産業労働組合連合、日本炭鉱労働同組合、日本私鉄労働組合総連合会、日本電気産業労働組合、日本紙パルプ紙加工産業労働組合連合会、全国金属労働組合、全国化学一般労働組合同盟、全日本電機・電子・情報関連産業労働組合連合会の8つの単産をさす53エルダー■■■■■■■■いまさら聞けない人事用語辞典
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