食文化史研究家●永山久夫2024.552366FOOD平安貴族も好んだモズク酒の肴としても人気まわりを海に囲まれた日本は、海藻の宝庫であり、古くから世界でもまれなほど、海藻食文化が栄えてきました。コンブ、ワカメ、ノリなど、その種類は多く、縄文時代から食用にされ、最近では、健康長寿食として人気を呼んでいます。その一つがモズク(水雲)。古代では「毛都久」、「毛豆久」などと表記され、平安時代には、若狭湾(京都府・福井県)のモズクが京へ貢納されています。貴族たちの食膳にはよく出ていたようで、紫式部や清少納言たちも食べていたのは、間違いないでしょう。ほかの海藻に付着して生息するところから「藻につく」という意味で、「モズク」と呼ばれるようになったようです。食物繊維が豊富で、整腸効果が高く、お通じをよくし、ダイエットにもぴったり。座ったままの生活が多い平安時代の貴族たちが好んでいたのも、お腹の調子をよくするためだったのです。モズクは糸状で細かく枝分かれしており、全長が40cm位で、黒褐色をしていて春から夏にかけて育ちます。舌ざわりが滑らかで、手ですくい上げようとすると、指の間からぬらりと逃げ落ちてしまいます。煮え上がった汁のなかに入れ、さっと美しく緑色に変わったところで火を止めて食用にすると、塩味がかすかに伝わり、とっても美味しいです。モズクの酢の物は高級品で、上戸は目を細めて塩辛のように珍重します。もちろん、ご飯の友としても人気があるのはいうまでもありません。江戸時代初期の『料理物語』という料理本の「磯草の部」にモズクがあり、レシピとして「冷汁(吸い物の一種)、さしみ」とあります。「さしみ」は酢の物のことで、武士の食膳によく出されています。モズクには、カロテンが多く、体細胞や血管などの酸化、つまり老化を防ぐ働きをして、健康を守っています。体の老化を防ぐモズク日本史にみる長寿食
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