27食文化史研究家●永山久夫エルダーFOOD367戦中・戦後の食糧不足の時代に、「梅干し」の活躍は見事でした。「日の丸弁当」の登場です。アルミ製のでっかい弁当箱に、ご飯をぎっしりと詰め、真ん中にたった一個の赤い梅干し。炭水化物のほかに、おかずは酸っぱい梅干し一個。梅干しが四角い弁当箱の真ん中にあるさまは、日の丸に見えました。まさに「日の丸弁当」です。しかし、その梅干し一個の弁当を平らげると、腹の底からパワーが湧き、少々働き過ぎても、疲れを感じませんでした。日本人にとって、おかずが梅干しだけの弁当は、不思議なパワーを生み出す弁当でした。戦後の混乱の時代を梅干しを舐めながらがんばり、見事に乗り切って、奇跡の復興を成し遂げたのです。世界からも賞賛され、豊かになった日本人は、いまや世界でもトップクラスの長寿民族です。梅干しは、日本人のソウルフード(魂の食べ物)と呼んでもよいでしょう。色も鮮やかな赤色で、日本人好み。酸味もよい。日本人の大好きなお米のご飯のほどよい甘さとも、じつによく合います。食欲も出ます。銀シャリの本当のうまさを知るには、梅干しが一番です。それにしても、けたたましい、あの酸っぱさはどうでしょう。舐めただけで口はすぼみ、顔中の筋肉がぎゅっと縮んで、顔が一気にシワだらけとなります。酸味のもとは、クエン酸やリンゴ酸の有機酸で、昔から梅干しの酸味を口にすると、疲労回復や食中毒の予防に役立つことが知られています。梅干しの機能を知り尽くして、実戦に活用していたのが戦国の武士たち。当時の兵法書によく「息■■合■■の最上は梅なり」と出てきます。「息合」とは、息を整えることで、合戦のあとの息切れを癒し、疲労を回復させるためにも欠かせませんでした。まさに、ピンチを乗り切るために梅干しを活用していたのです。梅干しの不思議な力戦国武士に欠かせない梅干し日本史にみる長寿食「日の丸弁当」の梅干しパワー
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