エルダー2024年7月号
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「モラトリアム」とは心理学の領域では「アイデンティティ確立のための猶予期間」をさす。流行の波に乗って就職せずにのんびりと青春を謳歌していた藤井さんに、ついに父親の叱声が飛び、モラトリアムからの脱却を図ることになった。伊豆大島から新しい世界を求めて成長し続ける時代とともに第回■■■■■■私は伊■豆■大■島■で生まれ、地元の中学校を卒業後、東京都下の秋■川■市(現あきる野市)にあった全寮制の男子校、東京都立秋川高等学校に入学しました。大島にも高校はありましたが、その高校に父が国語教師として勤務しており、同じ高校へ進学することに抵抗があったのだと思います。当時唯一の全寮制の普通科高校の新設が世間の注目を浴びたのか、1965(昭和40)年に秋川高校が開校したことが新聞でも報道されました。その記事を目にした小学校3年生の私は、「将来自分もここに進みたい」と漠然と決めたように思います。全寮制のため住む所の心配がないのも魅力でした。また、新しい学校だったので進取の精神が旺盛で寮生活もとても楽しいものでした。残念ながら2001(平成13)年に廃校になりましたが、同窓会や同期会は連綿と続いていて、かつての仲間たちとはいまも親交を深めています。高校卒業後は埼玉大学に進み、新しい学問として人気が出始めた文化人類学を専攻しました。結局私は新し物好きなのかもしれません。世の中では「モラトリアム」という概念が流行し、卒業してもすぐに就職しない若者が闊歩しており、私も大学時代から始めたアルバイト先でそのまま気楽なアルバイト生活を送っていました。もしろい会社でしたが、理系でない私は一介のアルバイトに過ぎず、いつまでもふらふらしている私を見かねた父が奥村印刷株式会社を紹介してくれました。地元の高校で進路相談を担当していた父は、成長率の高い会社として、奥村印刷に島の高校生を何人か送り込んでいました。ありがたいことに私も採用され、社会人としてやっと第一歩をふみ出すことができました。28歳の遅い出発でした。あった時代で、私の入社と同じ年に会社が輪転機を導入し、埼玉県川越市に工場が新設されました。私は工務進行という部署で、製版工程の進行管理の業務に就きました、輪転機が本格的に稼働するとどんどん注文が増え続け、工程管理の仕事は息つく暇もないほどでした。いまの時代に大きな声ではいえませんが、家に帰れば日付が変わるような日々が続いたものです。このころ、最も販売促進効果アルバイト先は水■文■※の研究をしているお印刷の分野だけでなく日本の産業が活力の※  水文……地球上の水の循環などを対象に研究する学術分野経営管理本部藤■■井■淳■■■2024.742 藤井淳さん(68歳)は、大学卒業後に入社した印刷会社で、現場の進行および管理部門一筋に歩いてきた。定年後も経験を活かし職場環境充実のために挑戦を続けている。仕事がおもしろくてたまらないと笑みがこぼれる藤井さんが、生涯現役で働くことの楽しさを語る。奥村印刷株式会社高齢者に聞く95さん

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