エルダー2024年7月号
48/68

就業規則の根拠を確認したうえで、受診を命令しなければならない必要性および相当性を検討したうえで、受診を命じることは可能ですが、体重の減少などを理由とすることは控えることが望ましいでしょう。なお、費用負担をする義務はありませんが、実務上は受診を実現するために費用負担をせざるを得ないこともありえます。最近、仕事でミスが多くなり、身だしなみも整わず、体重の減少などもあるようにみえる社員がいるので、精神疾患に罹患しているのではないかと心配しています。医療機関への受診を命じ、早めに対処したいと思っているのですが、社員が異性でもあるため、体重の減少を直接話題に出すのは、セクシュアルハラスメントにあたるのでしょうか。また、受診をうながした場合の費用の負担は会社が行うべきでしょうか。Q2受診命令の根拠護対象となるかについても、同事案は、雇用基準を定めており、当該基準を満たしていた者を更新しなかったというものであり、かつ、すでに嘱託社員としての労働条件が定まっていた労働者に関する事案であるから、本件とは事案を異にするものと判断されました。本裁判例からは、退職事由または解雇事由1会社が、労働者に対して受診命令を行うことができるか否かについては、最高裁昭和61年がある場合には、必ずしも客観的かつ合理的な理由が必要と判断されるとはかぎらない場合がありそうですが、継続雇用の具体的な労働条件が特定されている場合には、本件のような結論とはならない可能性があるという点などには、留意しておく必要があると考えられます。3月13日判決(帯広電報電話局〈NTT〉事件)において、判断されたことがあります。この事件は、就業規則を構成する健康管理規程において、労働者の健康保持の努力義務や健康回復を目的とした健康管理従事者の指示に従う義務があることなどが明記されていました。このような明示の根拠がある場合には、会社による受診すべき旨の指示に従い、病院ないし担当医師の指定および健診実施の時期に関する指示に従う義務があると判断されています。りは、健康管理上必要な事項については、受診を命じる必要性および相当性が認められれば、病院の指定や医師の指定も含めて命じることができると考えられます。なお、このような就業規則の規定がない場合についても、当該事件の事情に照らして医師の判断を仰ぐ高度の必要性が認められたことを理由に、信義則ないし公平の観念に照らし合理的かつ相当な理由のある措置として受診を命じることができると判断した裁判例もあります(東京高裁昭和61年11月13日判決、京セラ〈旧サイバネット工業〉事件・控訴審)。医師を選択する自由が労働者にもあることには配慮が必要です。例えば、労働安全衛生法第66条1項は、事業者に労働者に対する健康診断を義務づける一方で、同条5項ただし書きにおいて労働者が選択した医師による健康診断の結果を提出することは許容されています。医師選択の自由が保障されていることは重要であり、受診命令を根拠づける就業規則の合理性が肯定される根拠にもなりますので、自ら選択する医師による診察を受けるこ端的にいえば、就業規則に定めがあるかぎ受診を命ずるにあたっては、治療にあたる体調不良や精神疾患がうかがわれる社員に医療機関への受診を命令することはできるのですか2024.746A

元のページ  ../index.html#48

このブックを見る