エルダー2024年7月号
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セクシュアルハラスメントとの関係について受診命令にともない生じる費用の負担とを制限するものではないことも就業規則に明記しておくとよいでしょう。なお、受診命令の必要性および相当性も問題となります。「仕事のミスが多くなり、身だしなみが整わず、体重の減少も見受けられる」とのことですが、加えて、欠勤や遅刻の増加などの勤怠不良が生じていないか、本人と面談を行って心身の不調に関する本人の認識や原因の聴取なども行っておく方が適切でしょう。去の裁判例においては、「職場において、2過男性の上司が部下の女性に対し、その地位を利用して、女性の意に反する性的言動に出た場合、これがすべて違法と評価されるものではなく、その行為の態様、行為者である男性の職務上の地位、年齢、被害女性の年齢、婚姻歴の有無、両者のそれまでの関係、当該言動の行われた場所、その言動の反復・継続性、被害女性の対応等を総合的にみて、それが社会的見地から不相当とされる程度のものである場合には、性的自由ないし性的自己決定権等の人格権を侵害するものとして、違法となるというべき」(名古屋高裁金沢支部平成8年10月30日判決、金沢セクシュアルハラスメント事件。上告審においても判断是認)とされた裁判例があります。当該事件の事情から「男性の上司が部下の女性に対し」という前提になっていますが、重要なのはここで掲げられている考慮事由の内容です。このような裁判例の考慮事由をふまえて、「太ってるんだから」、「ダイエットするためにうちの店で働くって決めたんでしょ」などの発言を、業務とはまったく関係のないものであるとして、セクシュアルハラスメントに該当すると判断されている事例もあります(例えば、東京地裁平成27年10月15日判決)。違法な言動になるか否かについては、業務との関連性も考慮され、当該言動の必要性や相当性も評価されることになります。そのため、受診命令を行う必要性があったのか否かという点と、体重の減少といった話題を出す必要性は重なり合う部分があるといえるでしょう。前述の通り、受診命令の必要性および相当性にあたっては、欠勤や遅刻の頻度など客観的な事情も加味して判断すべきですので、体重といった話題を出すことなく、受診を命じることが可能であれば、その方が望ましいと考えられます。仮に、そのような話題を出さざるを得ないとしても、多少の体重の変動というよりは、客観的に見ても極度にやせ型になっており、従前の状況との大きな変化があったような場合に限定することが望ましいと考えられます。3受診命令にともなう費用負担に関しては、健康診断の費用負担に関する考え方が参考になります。義務に関して、厚生労働省は、事業者に法律上義務づけられた健康診断の費用であることから、当然に事業者が負担すべきものとの見解を示しています。他方で、法令上の義務ではない健康診断の費用に関しては、事業者が当然に負担すべきとは考えられていません。患への罹患が疑われている状況については、事業者において労働者を医師に受診させる義務を負担させるような法律上の根拠はなく、このような場合の受診や検査費用については、特段の決まりはありません。そのため、いずれが負担するかについては、労使間の協議により定めるべき事項であり、必ずしも事業者が負担しなければならないとはいえないでしょう。思に委ねていては受診もままならない状況で推移してしまい、休職に必要な判断材料が入手できないという状況に陥ることもあり、指定医による診察を受けてもらうことは会社の判断に資する部分が大きいこともふまえて、指定医における受診に関しては、会社において費用を負担することを明示して診察を命じることによって、医師の診断書の獲得に向けて動くことも選択肢に入れて、診察をうながさざるを得ないこともあるでしょう。労働安全衛生法第66条に基づく健康診断のこのような考え方を参考にすると、精神疾ただし、実務上の判断としては、本人の意47エルダー知っておきたい労働法AA&&Q

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