エルダー2024年7月号
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直線を5000本彫る基礎練習で自信をつけたのし遠藤さんが大事にしているのは、手で触れたときの心地よさ。お椀のような丸い器はろくろ挽き、重箱のような四角い器は指さ物も※でつくるのが一般的だが、遠藤さんはノミや彫刻刀などを使い、木の塊から削り出して形にしていく。「鎌倉彫でおもに使われるのは桂の木です。やわらかくて彫りやすいのが特徴ですが、やわらかすぎて、どこかにぶつけるとへこみができてしまいます。でも、そんなふうに相手を傷つけずに自分が傷つくところが私は好きです。また、堅い木と違って、冬になってもあまり冷たくなりません。こうした桂が持つやわらかさや温もりを伝えるには、手で削り出すのが一番よいと思っています」遠藤さんは宮城県出身。高校卒業後、東京の企業に就職。5年ほど経ったころ、観光で訪れた鎌倉でたまたま鎌倉彫の店をのぞいたことが、この道に進む契機となった。「黙々と木や漆に対峙する職人の仕事に憧れ、こういうものをつくる仕事をしたいと思いました」どこかの工房に入門しようと考えていたところ、「鎌倉彫高等職業訓練校」が開校されることを知り、第一期生として入学。同期には美大出身者もいたなかで、少しでも追いつき追い越そうと努力したのが基礎練習だった。「鎌倉彫では複雑な彫りを表現しますが、基礎は直線や真円を彫れるようになることです。野球や剣道の素振りと一緒で、その練習をどれだけやったかが将来に活きてきます。これなら私でもやればできると思い、当時は時間さえあれば練習していました」練習は、1枚の板に3ミリ間隔で直線を130本引き、その線に沿ってひたすら彫るというもの。「5000本彫った」という先輩使う人が器に触れたときの心地よさを大事にしている。そのため、ろくろ挽きではなく、木の塊をくり抜いてつくることにこだわる※ 指物……釘などを使わず、凹凸のつぎ目をつくり板を組みあわせる技法62「ものづくりの過程は試行錯誤の連続で、失敗も数多くあります。しかし失敗は苦痛ではなく、その積重ねが次につながると考えています」

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