的な義務である労務提供ができない状況にあります。そのため、労働者の債務不履行と評価することが可能といえます。債務不履行が生じたときには、契約を解除(労働契約においては解雇)できることが民法などの基本的なルールです。しかしながら、長期雇用を前提とした労働者が私傷病に罹■った場合に、私傷病で労務が提供できなくなったからといって治療の期間を与えることもなく解雇にすることが憚■られる場合もあるでしょう。また、治療期間もなく解雇することが労働者にとって酷な場合もあります。とはいえ、治療をいつまでも継続することになると、企業としては人員補充の時機を失することもあり、長期化する場合にはその不利益を無視できない場合もあります。そこで、休職制度を設けることによって、労働者にとっては、即時に解雇されるという不利益を一定程度緩和しつつ、企業としては期限までに復職できない場合には退職させることができるようにバランスをとることができます。そのため、使用者の立場から見たときには、休職制度は法的には労働者に対する解雇猶予措置としての機能を有しています。例えば、前出のY保険会社事件において、「休職制度は、一般的に業務外の傷病により債務の本旨に従った労務の提供をすることができない労働者に対し、使用者が労働契約関■■係は存続させながら、労務への従事を禁止又は免除することにより、休職期間満了までの間、解雇を猶予する旨の性格を有している」と整理されています。したがって、休職制度は、労働者にとって治癒できるまで会社が待つという意味では、労働者にとってメリットのある制度という側面もある一方で、法的には、休職期間満了時までに治癒できない労働者にとって退職が待ち構えているという不利益な側面も有している制度といえます。3休職制度の設計が企業の合理的な裁量に委ねられていることからすると、延長を認めるか否かについても、就業規則上であらかじめ定めておくことで、当該規定に基づいて延長することは可能と考えられます。そのため、就業規則において、延長を許容することがある旨定めている場合には、必要に応じて休職期間を延長することは可能でしょう。次に、就業規則において延長規定を置いていない場合についても、検討しておきましょう。就業規則が労働条件の最低基準を画する効力を有していることからすると(労働契約法第12条)、就業規則が延長規定を設けていない場合に、延長することが、当該労働者にとって不利益な措置となる場合は、たとえ個別の合意があったとしても、労働者にとって就業規則よりも不利益な労働条件として無効になると考えられます(労働契約法第7条)。にとって不利益な労働条件の変更となるかを評価する必要があります。休職制度が解雇猶予措置であることから、休職期間を延長することは、労働契約終了までの猶予期間を延長することを意味しています。そのため、労働者にとって、治癒して復職する機会が延長されることになります。このような観点からすれば、休職期間を労働者と合意のうえで延長することは、就業規則よりも有利な労働条件を定めるものとなり、延長することが許容されると考えられます。とすれば、休職の延長を行うことが労働者休職延長の可否■47エルダー知っておきたい労働法AA&&Q
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