エルダー2024年8月号
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食文化史研究家●永山久夫2024.852FOOD369世界中で、最もイカの好きな民族は日本人だといわれています。イカには、魚のような骨がありませんから食べやすいですし、日干しにすると保存がきき、味もいっそうよくなります。縄文時代の貝塚から、石灰化したイカの甲が出土しており、縄文人もイカが好物だったことがわかります。最近、イカの成分として注目されているのがタウリン。タウリンは、疲労回復に役立ち、気力や体力を強化する作用もあり、スタミナ強化のドリンクなどにも、よく用いられています。イカには、特にタウリンが多く、スルメに付着している白い粉はタウリンの結晶体で、なめてみると、かすかな甘さがあります。また、肝臓の働きを活性化する作用もありますから、酒の肴にイカの塩辛やイカソーメン、刺身などが好まれるのは、じつはとても健康的なのです。戦国時代の昔、忍者はスルメを噛みながら、山の中で夜間トレーニングをしたと伝えられています。暗がりのなかでも、視力が利くようにするためで、タウリンには、暗視能力を高める働きもあるといわれているのです。また、イカはタンパク質を多く含みながら、脂肪が少ないのでカロリーが低く、肥満を気にする方には、頼もしい食材といってよいでしょう。イカには抗酸化作用のあるビタミンEも多いですから、上手に食べることによって若返り効果も十分に期待できそうですし、感染症などに対する免疫力強化に役に立つミネラルの亜鉛も含まれています。イカを干したものがスルメで、江戸っ子も大好きでした。少し火にあぶり、裂いて食べるのが最もうまいといわれます。固くて食べにくい面もありますが、そこをがまんして噛み続けると、アミノ酸特有のうま味成分が、口のなかいっぱいに広がって、ついつい後を引き、しまいには、あごが痛くなったりします。江戸っ子とスルメの逸話は、次の江戸の川柳にあります。まきするめ口へ入れて困るなりくるくると丸くなったスルメを、口の中に入れたのはよいが、かさばって、噛むこともままならずに、なんとかしようと四苦八苦してしまいます。苦労しても食べたい、それだけスルメは美味なのです。縄文人も食べたイカ忍者好みの干しイカ江戸っ子とスルメ日本人の大好きなイカ日本史にみる長寿食

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